すっかり雪の降る季節になったので「AngelProject」の世界にある童話を掲載。
チャイルドたちの住む場所とは違う、ヒューマンサイドに伝わる童話という位置のお話です。
本編形にできなくてごめんだけど世界観だけでも残しておきましゅ…_(:3」 ∠)_
作中ではジョージ・ホワイトって作家のお話ってことになってます
(by.烏守)
《春のおとずれを告げる天使》
むかしむかし、
この世界には「春」「夏」「秋」「冬」四つの季節がありました。
四つの季節は私たちに豊かな暮らしをもたらしました。
ですが……
大きな戦争が起きてから、冷たくて真っ白な雪ばかりの「冬」しか来なくなったのです。
戦争のせいで大地は枯れ、凍えるような寒さで人が住める環境ではありませんでした。
どんなにお金があっても、どんなに偉い人でも、暖かい住居とご飯を得ることはできません。
人々は争うことを止めましたが、次々と寒さと飢えに倒れていきます。
そんな中、病まで流行りはじめてしまいました。
ある小さな兄妹は必死で病に倒れてしまったお母さんの看病をしましたが、少ないご飯と冷たい寝床では一向に治る気配がしません。
それどころか、とうとう妹にまで病がうつってしまいました。
村で病にかからず動ける人は、ほんの数人です。
このまま何もせずにいては、誰一人残らず倒れてしまいます。
村で一番健康で足が達者だった兄は
「遥か彼方、大地の先端に住んでいる賢者なら病を治す方法を知っている」
という話を聞いて、賢者に会いに行く決意をしました。
兄は深く積もった雪をかき分け、山を越え、飛ばされそうになるほど強く吹きつける向かい風にも負けずに賢者の家へとたどり着きました。
賢者は毛布と温かいスープを用意して兄を出迎えました。
賢者は彼が来ることも、何を知りたいのかも分かっていたのです。
「少年よ、春の天使をお探しなさい。
春の天使は人々が争う姿を見て、おびえて隠れてしまったのです。
春の天使が笑顔を取り戻した時、大地は芽吹き、流行り病がおさまり、多くの命が救われるでしょう」
兄は賢者の言う通りに春の天使を探しました。
けれど、誰も春の天使がどんな姿をしているのか、どこにいるのかも分かりません。
兄は何もない雪野原に向かって叫びます。
「春の天使、春の天使、聞こえていますか。
とっくに人々は争いを止めました。
もうあなたがおびえることはありません。
どうかお願いです、ぼくのお母さんと、妹と、みんなを助けてください」
すると、しくしくと泣く声がどこかから聞こえて来て、かわいらしい声で言います。
「ほんとうに、人は争うことを止めましたか」
兄は雪の中に埋もれているほら穴に誰かがいることに気が付きます。
その子こそが、春の天使でした。
「あなたが家族を助けるために、わたしを探していたことは知っています。
春が戻れば、人々は寒さや、飢えや、病に悩まされることはなくなります。
ですが、寒さや、飢えや、病がなければ、人はまた争うようになるでしょう」
兄は困りました。
春の天使の言うように、春が戻れば人々はまた争いを始めてしまうかもしれないと思ったからです。
「けれど、争いとは無関係の人たちまで寒さや、飢えや、病に悩まされてしまいます」
春の天使は悩みました。
春の天使は慈悲深く、本当は罪のない人々を見捨てるようなことはしたくなかったのです。
「それではこうしましょう。
あなたが争いのない世の中を作ってくれると約束してくれるなら、わたしはあなたのそばに春を運んであげましょう」
兄は春の天使と約束を交わし、一生懸命に人々にうったえかけました。
争いを止めれば春が再びおとずれること、寒さや飢えや病に悩まされることがなくなるということ。
一人の少年のうったえに、人々は心動かされました。
人々は争いでは大切なものを守れないことを知り、平和で豊かに暮らすことを心から望みました。
人々の気持ちがひとつになった時、
春の天使はたくさんの草花を両手にかかえ、三羽の鳥と二羽のウサギを連れて人々の前にあらわれました。
春の天使は鳥たちと歌い、ウサギたちと踊り、どんどんまわりは暖かくなって、たくさん積もっていた雪はみるみるうちに溶けていきました。
お母さんも、妹も、病で寝込んでいた人たちは元気を取り戻します。
春の天使は言いました。
「約束通り、春を連れてきました。
これで寒さに凍えることも、飢えに苦しむことも、病に倒れることもなくなるでしょう。
ですが、再びあなたたちが争いを起こした時、その時にはまた同じことが起きてしまうということを忘れてはなりませんよ」
こうして人々は春の天使に二度と争いを起こさないことを約束し、寒さや飢えや病に悩まされることなく、平和に暮らしました。
めでたし、めでたし。
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