2017-06-11

READ!/モダンタイムス(伊坂幸太郎)

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モダンタイムス
著作/伊坂幸太郎
発行/講談社文庫

[Auther]KarasuYoshimura

勇気を実家に忘れてきた。
そんな文句から始まり、気付くと浮気を疑われ拷問を受けるという衝撃のシーンから始まる。
最初から最後まで読者を惹き込んでいく内容は圧巻。

読み終えて……

浮気がばれ妻に依頼された男に拷問を受けるシステムエンジニア、渡辺拓海。
失踪した先輩社員、五反田の代わりに請け負う事になった発注元不明の出会い系サイト仕様変更の仕事、的中する占いメール。
検索するとやばいキーワードが五反田の失踪と、五反田を捜し出す不穏な人達に関係していると徐々に判明していき、真相を明らかにしようと奮闘していく。
といったところでしょうか。

「人は知らないものにぶつかった時、まず何をするか」

ネットが普及している情報社会だからこそ、この作品の怖さや危惧する事がわかる気がします。
今時、知らないから辞書で調べる、人に尋ねるより先に「ネットで検索」が優先されて、興味本位でキーワードをいくつか叩いて調べる事も日常的に少なくないですし。

作中、所々に善悪についてですとか、情報の操作ですとか、様々な話が散りばめられているんですが、どれも作中ばかりの話ではないなと感心してしまう事ばかりで……実を言うとネットの情報や現実での出来事に落胆して無気力になっていた自分の心を軽くしてくれました。
自分もその辺にある情報に振り回されて疲れていたのではないかなと。

それはさておき、
登場人物に個性があって良いですよね。
大石倉之介という名前の同僚、七三分けの三人組、リアルなウサギの仮面をかぶった拷問者などなど……
冒頭に拷問しに来たヒゲもじゃのお兄さんも、拷問は仕事だっていうだけで気の良い人だし。 目立つのは終盤になるけど、妻の佳代子も浮気を疑いすぎる以外は本当に良い女性だし(ミステリアスだけど)
冒頭からしばらくは夫の浮気を疑って拷問を依頼した妻の佳代子は恐ろしい女性だ、面倒な奥さんだ、という印象しか無かったのに、彼女が登場していくにつれて、さばさばした性格や発言に魅力を感じて、そんな妻に自然と惹かれている拓海の心情なんかがあって、なんだかんだ互いに良いパートナーじゃないかと暖かい気持ちになりましたし。
……渡辺夫妻、好きだな。

伊坂幸太郎先生の作品に初めて触れたのは「死神の精度」で、そこから関連性があると聞きつけて「魔王」、そして次に「モダンタイムス」をかじった流れですが、どれも読む順番や関連する部分を引いても魅力的だと思える内容でした。
この三作品で伊坂先生の作品の魅力にあてられました。
残忍な描写があるのにユーモアがあって、こんなに楽しく思える小説とこれまでに出会った事がない、と衝撃を受けた記憶があります。
目をつむりたくなるような残忍で(特に身体的に)痛々しい描写があっても、どこか爽やかなんですよね。
何度も言いますが、厭らしく感じさせないのが凄い。
大体の小説ではグロテスクな描写があると、気持ち悪くて仕方のない気持ちに駆られるのに、それが殆どないんです(個人差がありますが、私はそうでした)。

下巻からは「魔王」で登場した内容が入り混じってくるので「魔王」を読んでから読むとその分、最後の展開は胸アツでした。

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