順番に誘導役と捕り手を変えながら魚を捕って行く内に、すっかり夕暮れになってしまった。
結局、魚捕りを楽しんでいたのはエリオット、ジェイ、ハイルの三人と四人の男子だけで、ルイスにべったりだった女子群と、それにやる気を失くした男子たちはいつの間にか帰って行ったようだった。
同じく河原に居た唯一の大人であるメギスおじさんも、母ルイーズの言った通り自分の釣りに夢中で、子供達を見るどころか途中で帰ってしまっていた。
「ほら、お前たちのバケツにも分けてやるよ」
エリオットがこれまで捕れた魚は二匹、ハイルは三匹で、どれも小さく食べられるほどのものではなかった。
一緒に魚捕りを楽しんでいた他の子供たちも似たような結果だったが、ジェイだけ一人で二十匹近くもの魚を捕っていた。小さく食べれないために逃した魚を含めると、四十匹は捕まえていたのではないだろうか。
エリオット達は小さな魚を川に逃がしてやり、ジェイから食べられる大きさの魚を分けてもらった。
「ありがとう! 母さん喜ぶよ」
「この魚は今時期が食べ頃だから、そのまま焼いても美味しいと思うぜ」
緋色の夕日が射し込み、全員川から上がったのを察してルイスは本を畳 んで木陰から出て来る。
「終わったか?」
「うん。ジェイに魚もらったよ!」
ルイスはエリオットの分けてもらった魚の数と、ジェイのバケツに残っている魚の数を見た。
「すごいな、お前一人でこんなに捕ったのか」
「はぁっ?! ま、まあ俺なら当然だし?」
ライバル視しているルイスに褒められたのが意外で、ジェイは頓狂 な声を出し照れくささを押し殺そうと強がって見せた。
ハイルはニヤニヤしながらジェイの肩を叩く。
ハイルはジェイがルイスをライバル視しておきながら、憧れている事を知っていたので、素直に喜べないジェイの様子を面白がっていた。
「魚捕り楽しかったね! 狩りに出てる父さんたちも帰って来る頃だし、帰ろう」
「そ、そうだな!」
ジェイは照れているのを誤魔化そうと、足早に帰る準備を始めた。
帰り道の途中、西の空が眩 く明滅したと思うと、急に周囲が暗くなった。
エリオットは空が曇ったのかと顔を上げるが、その暗さは空模様ではなく黒い霧のようなものが辺りに広がったせいだと気付く。
「なに、この霧……」
朝方や夕方に気温差で白い霧が立ち込める事はあるが、黒い霧というのは見た事がなかった。
霧の中から獣のような低い唸 り声が響く。
まるで地の底から響いているような唸り声は子供達の身を竦 ませた。
そして黒い霧は見る見る内に一か所に集まり、黒い獅子のような形容を取る。
それは、命と意志を持たない「魔物」であった。
獣に酷似した姿を持つ魔物は、一般的に魔獣と称される。
「こ、これ、魔物……?」
恐るべき存在として概念は教えられていたが、子供達が魔物を見るのは初めてだった。
「何で? 魔物なんて出ないはずだろ!」
テロウ村は魔物を惑わせる性質のある植物が自生するハナトキの森と抗魔結界の力で魔物の類の侵入は防がれているはずだった。
帰るための道は魔獣によって塞がれてしまい、子供達は後退 る。
「に、兄ちゃん……」
エリオットは魔獣の姿に恐怖し、震えながらルイスの服の裾を掴 んだ。
「……大丈夫」
ルイスはエリオットの頭に手を置いて、落ち着くように励ますと、ハイルの方へ振り返る。
「ハイラプキン、お前は足が早かったな。俺が魔物の注意を引いている内に村まで走って大人を呼んで来てくれ」
「わ、わかった!」
ルイスは精霊術によって氷の魔剣を造り出し、魔獣の鼻先に突き出す。魔獣は単純で、ルイスの敵意に注目し、すぐ様襲い掛かった。
ハイルはその隙を突いて村へと走り出す。
魔獣は怒りを露 わにし、胴体を起こしてルイス目掛けて前足を勢い良く振り下ろした!
「ルイス!」
ジェイは心配で声を上げたが、ルイスは氷の剣と術を駆使して魔獣の攻撃を弾いた。
魔獣の黒く鋭い爪は魔剣を容易く割ったが、ルイスは魔力を注いですぐに修復させ、後ろにいる子供達へ魔獣を寄せ付けないように前へ出る。
ルイスの剣術は付け焼刃のものだったが、魔獣を牽制しつつ術を繰り出すための攻防において活躍した。
数分の戦いの末、魔獣の体はルイスの放つ冷気の術によって核を凍らせ、動きを止めた。魔獣だったものは黒い霧となり消え、凍った核が地面に転がる。
目の前の魔獣の動きが止まり、子供達が安堵したのも束の間。非情にも再び黒い霧が沸き出し、今度は二体もの魔獣を造り出す。
一対一であれば勝算はあったが、ルイス一人で後ろの子供達を守りながら魔獣二体を相手にするには無理があった。
精霊の加護持ちとはいえ魔力を無限に持っているわけではなく、魔力を捻出するにも体力が必要となる。
ルイスはやっと一体倒したところで既に息が上がっており、すぐ後ろにいたジェイとエリオットは心配そうに顔を見合わせた。
結局、魚捕りを楽しんでいたのはエリオット、ジェイ、ハイルの三人と四人の男子だけで、ルイスにべったりだった女子群と、それにやる気を失くした男子たちはいつの間にか帰って行ったようだった。
同じく河原に居た唯一の大人であるメギスおじさんも、母ルイーズの言った通り自分の釣りに夢中で、子供達を見るどころか途中で帰ってしまっていた。
「ほら、お前たちのバケツにも分けてやるよ」
エリオットがこれまで捕れた魚は二匹、ハイルは三匹で、どれも小さく食べられるほどのものではなかった。
一緒に魚捕りを楽しんでいた他の子供たちも似たような結果だったが、ジェイだけ一人で二十匹近くもの魚を捕っていた。小さく食べれないために逃した魚を含めると、四十匹は捕まえていたのではないだろうか。
エリオット達は小さな魚を川に逃がしてやり、ジェイから食べられる大きさの魚を分けてもらった。
「ありがとう! 母さん喜ぶよ」
「この魚は今時期が食べ頃だから、そのまま焼いても美味しいと思うぜ」
緋色の夕日が射し込み、全員川から上がったのを察してルイスは本を
「終わったか?」
「うん。ジェイに魚もらったよ!」
ルイスはエリオットの分けてもらった魚の数と、ジェイのバケツに残っている魚の数を見た。
「すごいな、お前一人でこんなに捕ったのか」
「はぁっ?! ま、まあ俺なら当然だし?」
ライバル視しているルイスに褒められたのが意外で、ジェイは
ハイルはニヤニヤしながらジェイの肩を叩く。
ハイルはジェイがルイスをライバル視しておきながら、憧れている事を知っていたので、素直に喜べないジェイの様子を面白がっていた。
「魚捕り楽しかったね! 狩りに出てる父さんたちも帰って来る頃だし、帰ろう」
「そ、そうだな!」
ジェイは照れているのを誤魔化そうと、足早に帰る準備を始めた。
帰り道の途中、西の空が
エリオットは空が曇ったのかと顔を上げるが、その暗さは空模様ではなく黒い霧のようなものが辺りに広がったせいだと気付く。
「なに、この霧……」
朝方や夕方に気温差で白い霧が立ち込める事はあるが、黒い霧というのは見た事がなかった。
霧の中から獣のような低い
まるで地の底から響いているような唸り声は子供達の身を
そして黒い霧は見る見る内に一か所に集まり、黒い獅子のような形容を取る。
それは、命と意志を持たない「魔物」であった。
獣に酷似した姿を持つ魔物は、一般的に魔獣と称される。
「こ、これ、魔物……?」
恐るべき存在として概念は教えられていたが、子供達が魔物を見るのは初めてだった。
「何で? 魔物なんて出ないはずだろ!」
テロウ村は魔物を惑わせる性質のある植物が自生するハナトキの森と抗魔結界の力で魔物の類の侵入は防がれているはずだった。
帰るための道は魔獣によって塞がれてしまい、子供達は
「に、兄ちゃん……」
エリオットは魔獣の姿に恐怖し、震えながらルイスの服の裾を
「……大丈夫」
ルイスはエリオットの頭に手を置いて、落ち着くように励ますと、ハイルの方へ振り返る。
「ハイラプキン、お前は足が早かったな。俺が魔物の注意を引いている内に村まで走って大人を呼んで来てくれ」
「わ、わかった!」
ルイスは精霊術によって氷の魔剣を造り出し、魔獣の鼻先に突き出す。魔獣は単純で、ルイスの敵意に注目し、すぐ様襲い掛かった。
ハイルはその隙を突いて村へと走り出す。
魔獣は怒りを
「ルイス!」
ジェイは心配で声を上げたが、ルイスは氷の剣と術を駆使して魔獣の攻撃を弾いた。
魔獣の黒く鋭い爪は魔剣を容易く割ったが、ルイスは魔力を注いですぐに修復させ、後ろにいる子供達へ魔獣を寄せ付けないように前へ出る。
ルイスの剣術は付け焼刃のものだったが、魔獣を牽制しつつ術を繰り出すための攻防において活躍した。
数分の戦いの末、魔獣の体はルイスの放つ冷気の術によって核を凍らせ、動きを止めた。魔獣だったものは黒い霧となり消え、凍った核が地面に転がる。
目の前の魔獣の動きが止まり、子供達が安堵したのも束の間。非情にも再び黒い霧が沸き出し、今度は二体もの魔獣を造り出す。
一対一であれば勝算はあったが、ルイス一人で後ろの子供達を守りながら魔獣二体を相手にするには無理があった。
精霊の加護持ちとはいえ魔力を無限に持っているわけではなく、魔力を捻出するにも体力が必要となる。
ルイスはやっと一体倒したところで既に息が上がっており、すぐ後ろにいたジェイとエリオットは心配そうに顔を見合わせた。
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魔獣登場シーン、結構お気に入りです。
ここでルイスのハイスペックさが発揮されてしまうという決定的なシーンでもあります。
エリオットは主人公だけどこのあたりでは主人公らしさがあまりないですが、序幕なのでまだ「始まっていない」段階ってことですかね…兄を頼りにする弟らしい弟って感じです。
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