2026-07-18

Dark Hunter / 第一幕〈16〉

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 まだ人もまばらな食堂で朝食を終えた後、エリオットは礼拝堂へ向かった。
 神官達は朝の六時、炎の(こく)丁度に礼拝堂で朝礼を行い本日の業務を開始する。
 エリオットは普段、あまり熱心な神官とは言えず、朝礼が終わる頃合いを見計らって礼拝堂へ向かうのだが、今朝はレディにいち早く会うために朝礼の時間より早く礼拝堂に顔を出した。
 礼拝堂には既にサードとレディ、ドリスの三人がおり何やら話し合っていた様子だった。

 三人はエリオットの姿に気付いて振り返る。
 サードは珍しく早い時間に顔を見せたエリオットに驚いたようだったが、すぐにいつもの微笑みを浮かべて挨拶を交わす。
「おはようございます、エリオット」
「おはよう叔父さん、ドリスさん……と、シャルアローさん」
 レディはサードの横でにやにやと笑みを浮かべ、ドリスが挨拶を返した後にエリオットに向かって「おはようございます」とわざとらしく丁寧な口調で挨拶した。
「エリオット。すみませんが、今日は神殿の業務をお休みして、レディさんに街を案内してくれませんか」
 昨晩、食堂で一緒にレディの話を聞いていたドリスは気まずそうにエリオットとレディを見つめた。
「できれば、歳の近い人に案内してもらいたいなって相談してたの。だめ?」
 レディはあざとく大きな目をしばたかせ、エリオットの顔を覗く。
 昨日の事を知らなければ可愛いさのあまりに承諾してしまうところだが、今となっては自分の思い通りに事を運びたいという彼女の意志が伝わり、憎らしくさえ感じてしまう仕草だ。

 今、神殿で彼女と歳の近い神官はエリオット以外に居ない。
 レディはそれを知った上で「歳の近い人に案内してほしい」とサードに頼み込んだのだろう。
 エリオットの次に若いのは二十三歳のドリスくらいで、その次が二十七歳、三十歳と差が開いている。
 それというのも、精霊神官のほとんどは家系によるものか信仰心が強い者に限定されるためだ。
 今の若い世代は昔より信仰心が薄く、神官の家系であっても別の道を選ぶ者が多いからである。恐らく、エリオットも五年前の出来事が無ければ神官の道に足を入れる事すら無かっただろう。

「他に用事があるなら、ドリスに代わってもらうが―」
 エリオットの一瞬の渋い表情を捉えたサードはそう提案するが、エリオットは首を振る。
「いや、俺が案内するよ」
 その答えに、レディは驚きとも喜びともとれるように目を見開く。
「ほんと! ありがとう!」
 レディは大袈裟にエリオットの両手に握手した。
 もしドリスや他の人と街へ出たところで、彼女は昨日話した計画を諦めずに、姉を救うために何らかの行動を起こすだろう。
 その行動がどう転ぶかは分からないが、昨日の発言から危うさを感じさせた。
 エリオットはここで断るより、自分が街案内として付いて行き、彼女の行動を制限し計画を根幹から阻止したほうが良いと考えていた。
「ネジュアの街は水の精霊の加護で(あふ)れていますから、神殿の研修に役立つでしょう。精霊を扱う職業柄、その土地の精霊と交流するのはとても大事なことです。頼みましたよ、エリオット」
 サードの言葉は、街案内は遊びではなく仕事の一環であると釘を刺すものだった。
 精霊との交流は共鳴関係を強め、精霊術の効果を引き出すには必要で、素質があっても新しい土地では慣れた土地より精霊術の効果が発揮できないという現象はよくある。
 フェアリィナ大神殿は医療機関としても重大な役割を担っており、治療能力に長けた水の精霊術を向上させる事は神官の義務だ。
 サードの言葉の意味を理解したのか、レディの視線は泳いでいた。
「朝礼への参加は結構です。早朝はテテロトキスの河原に精霊がよく集まっていますから、街より先にそちらへ案内してあげてください」
「わかった」
 エリオットの快諾にサードは微笑んで、用意してあったひとつの麻袋を渡す。
「エリオット、これを持って行きなさい」
 麻袋の中には少しのお土産と二人分の昼食が頼めるくらいの通貨と薬草が入っていた。
 麻袋には神殿の紋章が入っているため、神殿の経費から出ているのだろう。あくまでもこれは仕事の一環なのであるという念押しのようにも見えた。
「夕食までには戻って来て下さいね」
「はーい! ありがとうございます、司祭様」
 レディはころっと態度を変えて、大袈裟に両腕を上げて喜んで見せた。
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7月25日更新予定
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🐦‍⬛からすの後書きコーナー

レディちゃんの猫かぶりっぷりが書いていて好きです。
上司にはいい子ちゃんぶってるけど同等かそれ以下の扱いはすごく雑というか。
エリオットとレディはどちらも素直さがあるけど水と油みたいな差があってお互いに苦手意識あるだろうなーと思いながら書いています。

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