ミーシアと別れた後、エリオットとレディは河原を存分に散策してからネジュアの街に戻り、仲介所に向かう途中で市場や店舗を見て回った。
午前八時から九時を指す雷の刻は活気づき、河原へ出掛けた時間とは違って大きい通りに行き交う人の波が大都市らしさを見せていた。
ウツボ通りに入ると一気に空気が変わり、厳 つい装備に身を包んだ傭兵がまばらに歩いている。
納品のために獣や魔物の一部を携 えた者も通るためか、臭み消しとして使われる香草の香りに混じって血なまぐさい悪臭が漂っている事もあった。
目的地の傭兵仲介所の前に着くと、既に人でごった返していた。
「朝からこんなに人が来てるの?」
レディはぞろぞろと仲介所に出入りする人の波を見て唖然とする。
「仲介所に併設されている食堂目当てに来る人が多いんだよ。ダークハンターの免許を持っていれば割引が適用されるし、提供される日替わり定食が美味しくて毎日楽しみに通う人がいるくらいだから」
仲介所に併設されている食堂は「眠たい人魚の吐息亭」といい、ここではダークハンターの免許を持っていれば食事の割引が提供される。
安価に朝食をとりたい人はもちろんだが、この食堂で提供される食事は安価でありながらも絶品で、知る人ぞ知る食事処になっていた。
エリオットは主に神殿寮で食事が提供されるため基本的に食費に困る事はなく、滅多に外食をする機会は無いのだが、以前ダークハンターとして受けた依頼の報告ついでに寄った際に口にした定食は、外見こそ素朴だったものの味付けが絶妙でまた食べたいと思うほどだった。
噂では、眠たい人魚の吐息亭の店主は三大都市のひとつ城下都市ディヴァリウスにある貴族御用達 の高級宿泊施設で長年料理長を勤めていた経験があるのだとか。
ここが汗と血なまぐささの混ざった傭兵仲介所でなければもっと大量の人が押しかけるのだろうが、程よく混んでいながらも好きな時に食事がゆっくりできる現状が丁度良さそうだ。
エリオットを先頭に、二人は開け放たれた仲介所の入口をくぐって中へ入る。
「ふぅん。神殿の食事ってちょっと物足りないし、今度あたしもそこで食べてみようかしら」
レディは人の波が向かう方向にある食堂の看板を見て呟いた。
「あら。おはよう、エリオットちゃん」
受付の向こうでチェルシーが書類を見ていた視線を上げてエリオットに挨拶する。
仲介所の中に人だかりは出来ているが、多くは食堂目当てと掲示板に張り出されている簡易依頼書を見ているようで、受付は丁度空いていたようだ。
「おはようございます」
エリオットは受付の前へ進み、微笑むチェルシーに挨拶を返す。
「お嬢ちゃんも一緒なのね」
チェルシーはエリオットの後ろから入って来たレディをちら、と一瞥して「やっぱりね」と見透かしていたとでも言うような余裕の表情を浮かべた。
レディは先日の件でチェルシーに苦手意識を持ってしまったようで、チェルシーの顔を見ながら恐る恐る軽く頭を下げる。
「どーも」
本人がいない場所では「あのハゲ」と息巻いていた威勢は見る影もない。
レディのその様子に、チェルシーは扱いに困る子供を見るような眼差しで笑いかける。
「チェルシーさん。相談があるんですが、お時間もらえますか」
「いいわよ。応接室で話を聞くわ」
チェルシーは受付を他の職員に任せ、受付の横にある奥まった薄暗い突き当りの「応接室」と書かれた個室へ二人を通した。
窓こそあるが、隣の建物の影になっているせいもあって個室は薄暗く、チェルシーは部屋の天井にぶら下がる四角い精霊灯を点けた。
「どうぞ、座って」
三人まで座れる背もたれのある黒い革張りの長椅子に、促されるまま中央部分を空けてエリオットとレディは座る。
チェルシーは硝子 の低い机を挟んだ同じ造りの長椅子の中央に二人と向き合うように座り、長く筋肉質な足を組んでじっと二人を見据えた。
「あの、チェルシーさん……」
「リュチア・シャルアロー救出作戦について、でしょ?」
エリオットが口を開くなり、チェルシーは射貫くような眼差しを向けて言い放つ。
「!」
レディとエリオットは言い当てられた事に驚き、黙って口を開いたままチェルシーを見た。
「やっぱり、そうなのね」
チェルシーは眉尻を下げて溜息を吐く。
「お嬢ちゃんはお姉さんを助けに行きたい。エリオットちゃんはファズガル教団を懲らしめたい。……それで大体、予想がつくじゃない?」
レディは複雑そうに口を歪め、膝の上で両手を握り締める。
「な、なによ。それで、またダメって言うわけ?」
「早とちりはダメよ、お嬢ちゃん」
チェルシーは一旦落ち着くように人差し指を顔の前で立てて穏やかな口調で言った。
「わざわざアタシがダメって一言断るためにアナタたちをここに通したと思ってる?」
午前八時から九時を指す雷の刻は活気づき、河原へ出掛けた時間とは違って大きい通りに行き交う人の波が大都市らしさを見せていた。
ウツボ通りに入ると一気に空気が変わり、
納品のために獣や魔物の一部を
目的地の傭兵仲介所の前に着くと、既に人でごった返していた。
「朝からこんなに人が来てるの?」
レディはぞろぞろと仲介所に出入りする人の波を見て唖然とする。
「仲介所に併設されている食堂目当てに来る人が多いんだよ。ダークハンターの免許を持っていれば割引が適用されるし、提供される日替わり定食が美味しくて毎日楽しみに通う人がいるくらいだから」
仲介所に併設されている食堂は「眠たい人魚の吐息亭」といい、ここではダークハンターの免許を持っていれば食事の割引が提供される。
安価に朝食をとりたい人はもちろんだが、この食堂で提供される食事は安価でありながらも絶品で、知る人ぞ知る食事処になっていた。
エリオットは主に神殿寮で食事が提供されるため基本的に食費に困る事はなく、滅多に外食をする機会は無いのだが、以前ダークハンターとして受けた依頼の報告ついでに寄った際に口にした定食は、外見こそ素朴だったものの味付けが絶妙でまた食べたいと思うほどだった。
噂では、眠たい人魚の吐息亭の店主は三大都市のひとつ城下都市ディヴァリウスにある貴族
ここが汗と血なまぐささの混ざった傭兵仲介所でなければもっと大量の人が押しかけるのだろうが、程よく混んでいながらも好きな時に食事がゆっくりできる現状が丁度良さそうだ。
エリオットを先頭に、二人は開け放たれた仲介所の入口をくぐって中へ入る。
「ふぅん。神殿の食事ってちょっと物足りないし、今度あたしもそこで食べてみようかしら」
レディは人の波が向かう方向にある食堂の看板を見て呟いた。
「あら。おはよう、エリオットちゃん」
受付の向こうでチェルシーが書類を見ていた視線を上げてエリオットに挨拶する。
仲介所の中に人だかりは出来ているが、多くは食堂目当てと掲示板に張り出されている簡易依頼書を見ているようで、受付は丁度空いていたようだ。
「おはようございます」
エリオットは受付の前へ進み、微笑むチェルシーに挨拶を返す。
「お嬢ちゃんも一緒なのね」
チェルシーはエリオットの後ろから入って来たレディをちら、と一瞥して「やっぱりね」と見透かしていたとでも言うような余裕の表情を浮かべた。
レディは先日の件でチェルシーに苦手意識を持ってしまったようで、チェルシーの顔を見ながら恐る恐る軽く頭を下げる。
「どーも」
本人がいない場所では「あのハゲ」と息巻いていた威勢は見る影もない。
レディのその様子に、チェルシーは扱いに困る子供を見るような眼差しで笑いかける。
「チェルシーさん。相談があるんですが、お時間もらえますか」
「いいわよ。応接室で話を聞くわ」
チェルシーは受付を他の職員に任せ、受付の横にある奥まった薄暗い突き当りの「応接室」と書かれた個室へ二人を通した。
窓こそあるが、隣の建物の影になっているせいもあって個室は薄暗く、チェルシーは部屋の天井にぶら下がる四角い精霊灯を点けた。
「どうぞ、座って」
三人まで座れる背もたれのある黒い革張りの長椅子に、促されるまま中央部分を空けてエリオットとレディは座る。
チェルシーは
「あの、チェルシーさん……」
「リュチア・シャルアロー救出作戦について、でしょ?」
エリオットが口を開くなり、チェルシーは射貫くような眼差しを向けて言い放つ。
「!」
レディとエリオットは言い当てられた事に驚き、黙って口を開いたままチェルシーを見た。
「やっぱり、そうなのね」
チェルシーは眉尻を下げて溜息を吐く。
「お嬢ちゃんはお姉さんを助けに行きたい。エリオットちゃんはファズガル教団を懲らしめたい。……それで大体、予想がつくじゃない?」
レディは複雑そうに口を歪め、膝の上で両手を握り締める。
「な、なによ。それで、またダメって言うわけ?」
「早とちりはダメよ、お嬢ちゃん」
チェルシーは一旦落ち着くように人差し指を顔の前で立てて穏やかな口調で言った。
「わざわざアタシがダメって一言断るためにアナタたちをここに通したと思ってる?」
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8月29日更新予定
8月29日更新予定
🐦⬛からすの後書きコーナー
チェルシー姐さん(漢)の回がやってきました。
チェルシー姐さんは昔から考えていたキャラクターで、スキンヘッドでオネエという属性っょっょのお人です。
そして引退したとはいえ多分腕っぷしも強い。事務仕事もこなせちゃうオールマイティ。仲介所のマスターの次くらいに偉い立場です。
私が「こういう上司なら付いていける」と思うタイプの人として書いています。
主人公たちの強力なサポート役として今後も描いていけたらいいな…
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