「この条件を破ればダークハンターの資格は剥奪よ」
ダークハンターの資格が剥奪された場合、三年以内の再取得ができない決まりになっている。
条件を聞いたエリオットの表情は曇った。
「アナタたちに、この条件が呑める?」
応戦するな――攻撃されても戦うなというこの条件は、即 ち、ただ逃げるしかできないという事に他ならない。
エリオットはこの作戦で戦う必要が無い事は理解していたが、自分の身を守る事すら許されないというのは納得がいかず、逡巡 の末にチェルシーに質問を投げ掛けた。
「応戦が止むを得ない場合は、例外として扱われませんか」
「当然」
チェルシーはぴしゃりと答えた。
「今回の作戦で戦うのは同行する熟練者の役目であって、新米二人ではないのよ。もし敵に囲まれたとしても、応戦するのは同行の熟練者。彼らには新米の逃走経路を死ぬ気で作ってもらうわ」
「え。ちょっと待ってよ」
レディはチェルシーの言った事に目を見開き、納得がいかないと口を開く。
「じゃあ、あたしたち……新米二人以外が危険な状況になっても、逃げるしかできないってこと?」
「あのねぇ。本来、新米の参加は予定されていなかったの。この条件が最大の譲歩なのよ。おわかり?」
エリオットとレディはこの条件は二人を振るい落すためなのではないかと捉えており、二人の表情に不満が表れているのを見てその心中を察したチェルシーは、やれやれと首を横に振って諭す。
「誤解しないでほしいんだけど、これは単純に危険な任務において新米が役割以上の事をしないという条件よ。何度か依頼をこなしてきたエリオットちゃんなら、理解できるんじゃないかしら」
エリオットは、はっとして顔を上げる。
いつの間にか作戦に参加できる機会ばかりを考え、仲介所の理念を忘れかけていた事に気付いたのだ。
「ど、どういうこと?」
レディは何かに気付いた様子のエリオットを見て自分だけ何も分からない事を不安に思い訊ねた。
「……安全のため、ですね」
エリオットの答えに、チェルシーは頷く。
「そう。アタシたちもイジワルでこの条件を出してるわけじゃないの。……まあ、役割の説明より先に〝応戦するな〟と言ったのはちょっとイジワルだったかもしれないけれど」
チェルシーは悪戯っぽく笑って提示した条件の意図を明かした。
複数人で動くには役割分担が必ずあり、本来であれば参加が許可されていない新米傭兵は例外として参加する以上、同行者を含めた命を守るためにもその役割以上の事を侵してはならない、というのが「ファズガル教団に応戦しないこと」という条件の意図であった。
「ここでそれくらい気付かなかったら、参加を拒否しようかと思ってたわ」
「なによそれ。引っ掛けみたいな条件なんか出しちゃって」
レディは最初から理由を説明してくれたら良かったのに、と、不機嫌に口を一文字に結んで目の前のチェルシーを恨めしそうに睨んだ。
「そんな顔しないで頂戴。せっかく可愛いのに、勿体ないわよ」
チェルシーは笑ってレディの顔を見たチェルシーに、レディは「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
チェルシーは「嫌われちゃった」とふざけ気味に笑ってから話を戻す。
「あくまでも新米の役割は救出対象の確保と補助。水神殿の神官であるアナタたちなら治癒術くらい身に着けているだろうから、適材適所だと思うけど。どう? 難しい条件ではないでしょう?」
チェルシーは二人を交互に見て答えを待った。
エリオットは条件の意図するところを知り、希望を見出したように感じてはいたが、まだ不安は拭い切れていなかった。
一息の内に頭の中で情報を整理した後、いつの間にか丸まっていた姿勢を直して確認する。
「それは……戦闘に直接手出ししなければいい、ということで合っていますか?」
チェルシーは頷いた。
「ええ。治癒術や強化術を用いて応戦役の同行者を補助する事については大丈夫よ。むしろ、そうした役割は重要になるはずだわ。ボスの狙いも恐らくはアナタたちの能力を見抜いてのことでしょうね」
レディは不満そうに長椅子の背もたれに勢い良く背を預け、腕を組む。
「回りくどいわね。参加してって素直にお願いすればいいじゃない。時間ばっかり過ぎていくだけだわ」
彼女はチェルシーの言葉から、二人の参加は面白半分に新米を参加させようとしたのではなく、必要な人員として組まれたものだと察してそう言った。
それはあながち間違っておらず、チェルシーは一瞬片眉を上げ、レディの洞察力に感心する様子を見せた。
「どれくらいこの仕事を理解しているか確認するのはダイジなのよ。お嬢ちゃんはまず、基本的な資格を取るところから始めなきゃだけど?」
チェルシーの挑発的な眼差しに対し、レディは臨むところと不敵な笑みを浮かべ、睨み返した。
「さっきも言ったけど、座学でも技能でも、あたしはいつでも準備できてるわ」
「ふふ、有難いわね。救出作戦も情報が集まり次第始まるから、手早く済ませちゃいましょ。……応戦についての条件は、充分よね?」
チェルシーは再度二人に確認する。
「はい」
「もちろんよ」
二人は同時に頷き、返事をした。
「よろしい」
チェルシーは満面の笑みを浮かべ、組んでいた長い足を床に下ろし、長椅子から立ち上がった。
「付いて来て頂戴。裏の広場で試験を行うわ」
チェルシーはそう言って部屋から出て、優雅な足取りで二人を案内した。
ダークハンターの資格が剥奪された場合、三年以内の再取得ができない決まりになっている。
条件を聞いたエリオットの表情は曇った。
「アナタたちに、この条件が呑める?」
応戦するな――攻撃されても戦うなというこの条件は、
エリオットはこの作戦で戦う必要が無い事は理解していたが、自分の身を守る事すら許されないというのは納得がいかず、
「応戦が止むを得ない場合は、例外として扱われませんか」
「当然」
チェルシーはぴしゃりと答えた。
「今回の作戦で戦うのは同行する熟練者の役目であって、新米二人ではないのよ。もし敵に囲まれたとしても、応戦するのは同行の熟練者。彼らには新米の逃走経路を死ぬ気で作ってもらうわ」
「え。ちょっと待ってよ」
レディはチェルシーの言った事に目を見開き、納得がいかないと口を開く。
「じゃあ、あたしたち……新米二人以外が危険な状況になっても、逃げるしかできないってこと?」
「あのねぇ。本来、新米の参加は予定されていなかったの。この条件が最大の譲歩なのよ。おわかり?」
エリオットとレディはこの条件は二人を振るい落すためなのではないかと捉えており、二人の表情に不満が表れているのを見てその心中を察したチェルシーは、やれやれと首を横に振って諭す。
「誤解しないでほしいんだけど、これは単純に危険な任務において新米が役割以上の事をしないという条件よ。何度か依頼をこなしてきたエリオットちゃんなら、理解できるんじゃないかしら」
エリオットは、はっとして顔を上げる。
いつの間にか作戦に参加できる機会ばかりを考え、仲介所の理念を忘れかけていた事に気付いたのだ。
「ど、どういうこと?」
レディは何かに気付いた様子のエリオットを見て自分だけ何も分からない事を不安に思い訊ねた。
「……安全のため、ですね」
エリオットの答えに、チェルシーは頷く。
「そう。アタシたちもイジワルでこの条件を出してるわけじゃないの。……まあ、役割の説明より先に〝応戦するな〟と言ったのはちょっとイジワルだったかもしれないけれど」
チェルシーは悪戯っぽく笑って提示した条件の意図を明かした。
複数人で動くには役割分担が必ずあり、本来であれば参加が許可されていない新米傭兵は例外として参加する以上、同行者を含めた命を守るためにもその役割以上の事を侵してはならない、というのが「ファズガル教団に応戦しないこと」という条件の意図であった。
「ここでそれくらい気付かなかったら、参加を拒否しようかと思ってたわ」
「なによそれ。引っ掛けみたいな条件なんか出しちゃって」
レディは最初から理由を説明してくれたら良かったのに、と、不機嫌に口を一文字に結んで目の前のチェルシーを恨めしそうに睨んだ。
「そんな顔しないで頂戴。せっかく可愛いのに、勿体ないわよ」
チェルシーは笑ってレディの顔を見たチェルシーに、レディは「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
チェルシーは「嫌われちゃった」とふざけ気味に笑ってから話を戻す。
「あくまでも新米の役割は救出対象の確保と補助。水神殿の神官であるアナタたちなら治癒術くらい身に着けているだろうから、適材適所だと思うけど。どう? 難しい条件ではないでしょう?」
チェルシーは二人を交互に見て答えを待った。
エリオットは条件の意図するところを知り、希望を見出したように感じてはいたが、まだ不安は拭い切れていなかった。
一息の内に頭の中で情報を整理した後、いつの間にか丸まっていた姿勢を直して確認する。
「それは……戦闘に直接手出ししなければいい、ということで合っていますか?」
チェルシーは頷いた。
「ええ。治癒術や強化術を用いて応戦役の同行者を補助する事については大丈夫よ。むしろ、そうした役割は重要になるはずだわ。ボスの狙いも恐らくはアナタたちの能力を見抜いてのことでしょうね」
レディは不満そうに長椅子の背もたれに勢い良く背を預け、腕を組む。
「回りくどいわね。参加してって素直にお願いすればいいじゃない。時間ばっかり過ぎていくだけだわ」
彼女はチェルシーの言葉から、二人の参加は面白半分に新米を参加させようとしたのではなく、必要な人員として組まれたものだと察してそう言った。
それはあながち間違っておらず、チェルシーは一瞬片眉を上げ、レディの洞察力に感心する様子を見せた。
「どれくらいこの仕事を理解しているか確認するのはダイジなのよ。お嬢ちゃんはまず、基本的な資格を取るところから始めなきゃだけど?」
チェルシーの挑発的な眼差しに対し、レディは臨むところと不敵な笑みを浮かべ、睨み返した。
「さっきも言ったけど、座学でも技能でも、あたしはいつでも準備できてるわ」
「ふふ、有難いわね。救出作戦も情報が集まり次第始まるから、手早く済ませちゃいましょ。……応戦についての条件は、充分よね?」
チェルシーは再度二人に確認する。
「はい」
「もちろんよ」
二人は同時に頷き、返事をした。
「よろしい」
チェルシーは満面の笑みを浮かべ、組んでいた長い足を床に下ろし、長椅子から立ち上がった。
「付いて来て頂戴。裏の広場で試験を行うわ」
チェルシーはそう言って部屋から出て、優雅な足取りで二人を案内した。
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9月12日更新予定
9月12日更新予定
🐦⬛からすの後書きコーナー
試し試され。
この場面書くのにどれくらいかかったのよってくらい考えに考えまくってました。
チェルシーをはじめとしたネジュアの傭兵仲介所の職員の面々は知略的な部分もあって、人を見る目はすごくて……みたいなそういう作者に無い部分があるから引き出すのに余計にかかってしまったというか。
ちなみに、レディちゃんは野生の勘というか女の勘というか、言ったらなんだけど思い込みが激しいけど結構的を射ていることもしばしばある、という設定です。
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