2026-10-19

Dark Hunter / 第一幕〈28〉

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 二人がコップ一杯のお茶を飲み終えた頃、仲介所に深緑の外套を羽織った赤い髪の青年が訪れる。
 不意に、エリオットは通りがかったその青年と目が合った。
 自分と同じ深い海を連想させる瑠璃色の瞳。
 見た目の年齢はエリオットとさほど変わらないようだが、鋭い眼差しとその立ち姿は戦い慣れた印象を受けた。
 彼の深緑の外套の下には身軽に動ける革の軽鎧が着こまれ、腰の左右には対を成す脇差(わきざし)を一振りずつ帯びている。
 革のブーツはボロボロに傷み、長距離の依頼でもこなしてきた帰りのように見受けられた。
 青年はすぐ目を逸らし、足早に窓口へと向かって行った。

「あれっ?」
 青年が通り過ぎた後、レディは声を上げ、その背後を目で追う。
「どうした?」
「あの人の後ろにヌヴェルが付いて来てる。闇の精霊なんて、滅多に人前に出て来ないはずなのに」

 今エリオットの目にこそ見えないが、闇の精霊ヌヴェルは蝙蝠のような形状の翼を持つ黒いもやの姿をしている。
 レディはその姿を捉えているのか、視線でエリオットに精霊のいる位置を教える。
 ヌヴェルは暗闇と静寂を司る性質上、術者が闇の精霊術を使わない限り街など人通りの絶えない場所には集まらないはずなのだ。
「術を使った直後にしても、あんなに人に付いてまわるなんて珍しいわ。闇精霊の加護持ちなのかしら」
 レディは興味深そうに、再び視線を赤髪の青年の背後に移してまじまじと精霊を観察し始めた。

 火、水、風、地、氷、雷、闇、光の八属性のうち、光と闇の精霊は人間に加護を与えにくい、もしくは与えないと伝わる。
 エリオットが精霊について学ぶ過程で得た知識の中では、光や闇の精霊が加護を与えるなら精霊に近いとされる精霊人アロンシアか、魔族に近いとされる竜人トティナスだろうとされていた。

(アロンシアといえば――)
 ふと、エリオットは昔の事を思い出す。

 両親の知り合いであり、自分の精霊術の師でもある白い外套の術剣士ヴァイス。
 五年前、ファズガル教団の襲撃から逃してくれた彼は、テロウ村の人々と同様に依然消息が分からないままだ。
 彼はアロンシアの特性のためか全ての属性の精霊を容易く扱っていたが、その中でも光の精霊キュリオンを扱い光の精霊術を得意としていたため、彼も加護持ちだったのだろう。
 アロンシアもトティナスも、どちらも何百年も前に滅んだと伝わる人種だが、ヴァイスという存在が現代にもまだその血脈が残っている可能性を身近に感じさせ、赤髪の青年もそうなのでは、とエリオットは思考の中で結論付ける。

(ファズガル教団を追えば、生き残った村人たちも、ヴァイスさんの消息も判るかもしれない)
 エリオットは不意に思い出した懐かしい記憶から、そんな希望を胸に、ヴァイスから貰った精霊石の入った聖銀の首飾りを指先で持ち上げて見つめた。
 ファズガル教団は各地で結界を破壊して町を滅ぼし、拠点を広げている他に、征服した町の人々を奴隷として労働させたり、魔術の実験体にしているという噂もある。
 ……あんなに強かった術剣士の彼が教団に捕らわれたとは考えられないが。

 顔を見上げると、レディはまだ窓口で職員と話し込んでいる赤髪の青年の後ろを観察している様子だった。
 エリオットはふう、と溜息を吐いて立ち上がり、自分のコップを片手に、レディの手にあった空のコップを回収する。
「他の人には見えていないだろうから、あまりじろじろ見ないほうがいいんじゃないか?」
「あぁ、それもそうね。あの精霊見てたら可愛くってつい……」
 エリオットは彼女の目に青年の背後にいる精霊がどのように見えているのか気になったが、レディにそれを訊ねる前に赤髪の青年が窓口でのやり取りを終えて二人の後方にある長椅子に座る。
 レディは気まずそうに口を噤み、エリオットが注意しないままずっと赤髪の青年に付いてまわる精霊を見ていたら怪訝(けげん)に思われたかもしれない、と照れくさそうに笑った。
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10月17日更新予定

🐦‍⬛からすの後書きコーナー

交差する青と青の瞳。
闇の精霊ヌヴェルに懐かれる謎のベテラン傭兵、赤髪の青年の登場。
いかにも重要キャラっぽい登場ですが…?
そして不意に思いだす精霊術の師匠、この作品の美形担当ヴァイス。果たして彼の消息はいかに?
待て次回!

……待て次回!って言ってみたかっただけです。
次はようやく出発かな~引き続き執筆がんばります!

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