2025-07-19

Dark Hunter
序幕〈5〉

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 二体の魔獣は目を不気味に赤く光らせ、じりじりと子供達との距離を縮めていく。
 ジェイは魔獣の鋭い眼光に息を呑んだ。
 ルイスは後ろにいる子供達に下がるように片腕を伸ばして合図し、呼吸を整えながら魔獣との間合いを見計らう。
 ルイスの横顔に汗が伝う。
 状況が悪い事を(さと)ったジェイは拳をきつく握りしめて恐怖心を押し殺し、足下に転がっていた石と丈夫そうな(とが)った枝を拾い、ルイスの横に並んだ。
「ル、ルイス、俺も戦うよ!」
 ジェイは震えながらも木の枝を構え、勇んで見せた。
「……助かる」
 ルイスのその言葉に、余計なお世話だと言われるのではないかと思っていたジェイは口元を(ほころ)ばせる。

 魔獣は左右二手に分かれ、威嚇している。先の一体を倒したルイスを警戒している様子だ。
 ルイスは左、ジェイは右の魔獣に向かって構える。
 魔獣が前傾姿勢を取り、飛び掛かる前の動作を見せたところに、ジェイは思い切り石を投げた。
 しかし、石は魔獣の体をすり抜けて地面に跳ね返り、虚しく転がってしまう。
「マジかよ」
 魔獣の体自体が霧でできているようで、物理的な攻撃を通さないらしい。
 ルイスは魔獣と一対一で再び攻防を繰り返し、ジェイの方にまで手が回らない状況である。
 投石を受けた魔獣はジェイに対して激昂し、身の毛がよだつほどの恐ろしい咆哮を上げた。
 子供達は恐ろしさに目を(つぶ)り、耳を塞ぎ、震えた。
 エリオットは恐ろしさに瞑ってしまった目をゆっくり開くと、魔獣が咆哮に竦んだジェイ目掛けて鋭い爪を振りかぶる瞬間が映った。
「ジェイ! 危ないっ!」
 エリオットは叫んだが、ジェイは体が硬直して迫りくる魔獣の爪にただ目を見開くばかりだった。
 魔獣のもう一体と応戦していたルイスは流石にそちらまで防ぐ事はできず、奥歯を噛み締める。

 魔獣の爪がジェイの体を切り裂こうと差し掛かった瞬間、一筋の光が辺りの黒い霧と共に魔獣の(からだ)を切り裂いた。
 子供達は一瞬の間に何が起きたか分からなかったが、消えていく黒い霧の間から白銀の剣を振るう英雄の姿を見た。
 魔獣の核となっていた赤紫に妖しく光る石は真っ二つになって地面に転がり、魔獣の姿は霧となって光と共に消えた。
「あ……」
 子供達を救った英雄が携えていた白銀の剣はルイスの氷の剣同様に精霊術によって造られた魔剣だったのか、その者の手中で光となって消える。
 すっかり黒い霧が消え、夕日が子供達と英雄の横顔を照らした。
 純白の丈の長い外套(がいとう)(まと)うその青年は、見た事のないような美しい風貌をしていた。
 美術品のように整った顔立ちは光の陰影で際立ち、夕日の緋色に照らされた透き通る水のような色素の薄い髪と碧眼。その存在は人ではなく、まるで宝石でも見ているような印象を受ける。
 子供達は一瞬で起きた出来事に呆然とし、突如現れた英雄に見惚れた。
「た、助けてくれて、ありがとう、ございます」
 魔獣に襲われそうだったところを間一髪で助けられ、地面にへたり込んでいたジェイすら、その人の美しさに見惚れてしまい、青年が去ろうとした気配を察して喉の奥からようやくの感謝の言葉を絞り出した。
 青年は子供達に静かに優しく微笑んで、外套の頭巾を被って森の方へ去って行った。
「さっきの、精霊術だよな……なぁ、ルイス」
 ジェイがルイスに話し掛けるが、ルイスは一人、白い外套の青年が去って行った方向を険しい表情で見ていた。
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🐦‍⬛からすの後書きコーナー

昔書いてた時は颯爽と現れた白いマントの術師の容姿について細身で中性的なキラキラ王子様的なイメージで描いてたんですが、ぱっと見「青年」って性別が出て来るあたり、新約(?)DarkHunterでは普通に男らしい特徴のある美青年的な容姿に変わってます。
人ならざる、宝石のような、という喩えが出るあたり察してほしいんですが、王道ファンタジーで言うところのエルフ的な……って、ちょっとネタバラシしちゃいましたが、結構重要な立ち位置にいる人物です。
…あー、ここで色々書いていても中身が書けてないとただの設定で終わるんだよなぁ…
がんばって続き書いていきます。しかもまだ序幕じゃーん

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