2025-07-26

Dark Hunter
序幕〈6〉

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「おーい! みんなー!」
 村からハイルが大人を連れて駆けて来た。その中には村長とエリオットの父エルドの姿もあった。
「それで、魔物は? 怪我は無いか?」
 まだ辺りに魔物が居ないかと、大人たちは周囲を警戒しながら子供達の安否を確認する。
 子供の中で怪我をしているのはまともに魔獣と応戦していたルイスくらいだったが、幸い軽い引っかき傷程度のものだった。
 ルイスは毒は無いようだからと、自分で大人の持って来た救急箱から消毒薬と塗り薬を取り出して、手早く処置をする。

「父さん! 白いマントのお兄さんが光の剣で魔物を倒してくれたんだ」
 エリオットはさっき起きた出来事の興奮が冷めやらぬあまりに目を輝かせ、真っ二つにされた魔獣の核を指差した。
 エルドは割れた魔獣の核、魔核を地面から拾い上げ、興味深く日の光に当ててじっくり観察する。
「凄いな、硬度の高い魔核が綺麗に割れてる」
「兄ちゃんもすごかったんだよ。こっちは兄ちゃんが倒したんだ」
 エリオットは凍り付いた魔核を指差して自慢げに父に伝えた。
 ルイスの倒した凍り付いた魔獣の魔核は、夏の気温にも溶ける気配は無く、ひんやりと冷気を放っていた。
「やるじゃないか、ルイス」
 エルドは傷の手当てを終えて合流したルイスに笑いかける。ルイスの無表情は平常運行で、そのまま何とも無かったかのように父の横に来て、割れた魔核に視線を落とす。
「兄ちゃんとジェイがみんなを守ってくれたんだよ。でも危なくなって、そこで白いマントのお兄さんが光の剣でズバ! って魔物を斬って助けてくれたんだ」
 エリオットは父にあの時の青年が剣を一振りした様子を真似て説明した。
 ハイルの父であり、テロウ村の村長イヴァン・ニコラウスがエリオットの話を耳にし、話の中の青年に思い当たる節がある様子で言った。
「ほう。白いマントと光の剣、ですか。もしかすると、ヴァイスさんの事でしょうか」
 エルドはイヴァンの予想に頷く。
「十中八九、そうだろうな。光の剣を使う術剣士はヴァイスくらいしかいないだろう」
 エルドとイヴァンは分かった風に言うが、他の大人達はこぞって首を傾げる。
「ヴァイスさん、とは?」
 聞き慣れない名前に首を傾げる村の大人達にイヴァンはそうでしょうね、と頷いた。
「旅のついでに訪れては結界の手伝いをしてくれている、親切な精霊術師の方です。人前を嫌う人ですし、皆が知らないのも無理はありません」
 結界を管理する結界塔と呼ばれる施設に入れるのは安定した魔力の制御ができる十五歳以上の精霊術師のみで、精霊術と無縁な村人は基本的に結界塔周辺に近寄る事は無かった。
 現在、村の中で結界の維持管理に携わっているのは、元精霊神官である村長のイヴァンとエルドのみで、他には定期的に結界の整備要員として精霊術師が数人派遣されて来るくらいである。
 ルイスも周囲に認められる腕前の精霊術師ではあるが、今は十四歳で秋の誕生日が来るまで結界の管理に携われない決まりになっていた。

「とにかく、子供達が無事で良かったです。ルイスくんも、ジェイくんも、皆良く頑張りました」
 イヴァンが隣に居た息子のハイラプキンに「お前も良く頑張りましたね」と言って笑顔を向けると、ハイルは照れくさそうに頭を掻く。
 エルドは他の大人数人と共に魔獣の形跡を調べ、魔核を回収し終えると、一仕事終えたと大きく手を上げて伸びをして、待っていたエリオットとルイスに声を掛けた。
「さーて。腹も減ったし、母さんも心配しているだろうから、家へ帰ろうか」
 エルドはエリオットとルイスに手を差し出す。
「うん!」
 エリオットは嬉しそうに父の手を取って繋いだ。
 一方で、ルイスは左手で重量のある分厚い本を持ち、右手で川魚の入ったバケツを持ち上げた状態で両手が塞がっていた。
 ルイスが差し出された手のひらをじっと無言で見つめると、父の片手は気まずそうに引っ込められ、どこか寂しそうにぷらぷらと揺れる。
 そんな父と兄の様子にエリオットはくすりと笑い、共に帰路に着いた。
序幕〈7〉≫
次週土曜更新予定
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🐦‍⬛からすの後書きコーナー

ここからの展開がだいぶ悩みました。
何回か書いた文章を一太郎からコピーしてBloggerに貼り付けてプレビューして、しっくり来ないなぁと、覚えてる回数だけでも5回は書き直しました。
ヴァイスという存在がそもそも扱いが難しいキャラで、元の設定ではエリオくんの両親(エルドとルイーズ)と知り合いというものだったんですが、今こうやって書いてる最中に全くの知らない人にしたほうがいいんじゃないかという考えもよぎったりして。
でもそれだとただの不審者にしかならないから、エルドが「知り合いだよ」と主張してあげることで円滑に進むなぁと、過去設定をそのままにしました。
ミステリアスで神秘的だけどなんとなく身近にいる、みたいな位置になった気がします。
あとはエルドとエリオット、ルイスの親子関係のあたりの表現が難しかったです。
途中までは白いマントの青年の事ばかりで他がおざなりになっていたんですが、エリオットならお兄ちゃん大好きで「ルイスもすごかったんだよ!」と言わないわけがないし、いい子なのでジェイの事も言うだろうなと。決定稿としては村長もそれで「皆頑張りました」でまとまったのでこれが正史だ!と納得しました。

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