2025-08-02

Dark Hunter / 序幕〈7〉

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 自宅前に着くと、心配そうに家族の帰りを迎える母ルイーズの姿があった。
「エリオット! ルイス!」
 子供達の姿を見ると、ルイーズは一目散に駆け寄り、エリオットとルイスを代わる代わる抱き締めた。
 エリオットは照れくさそうに、はにかみながら抱き締める母の腕を押しのける。
「ただいま、母さん」 「お帰りなさい。みんなお腹が空いたでしょう? すぐご飯の支度をするから、服の埃を落として家に入ってちょうだい」
 ルイーズは玄関の扉を開けて、子供達と夫にすぐ家に入るよう(うなが)す。
「父さんは夕食の支度が終わるまでに、捕ってきた魚を捌いて保存しておくよ」
 エルドはルイスから魚の入ったバケツを貰い、先に家の奥の流し台へ向かった。
 続いてルイーズと息子達も家の中へ入り、玄関の横に備え付けの刷毛(はけ)で衣類に付いた砂埃を落とす。
「母さん、今日の晩御飯はなに?」
 エリオットは母に背中の埃を払ってもらいながら、晩御飯の献立を訊ねる。
「エリオットの好きな、ウサギのシチューよ」
「やった!」
 エリオットは母の作るウサギのシチューが大好物で、跳ねて喜んだ。その様子に、ルイーズは優しく微笑む。
 ルイーズは続いてルイスの背中の埃を払ってあげようとするが、ルイスの腕や足についた引っかき傷に気付いて声を上げた。
「まあ! ルイス、傷だらけじゃない」
「処置はしてある。毒もないし、浅いからすぐ治る」
 心配そうに傷を見る母に対して、ルイスは落ち着いた口調で話し「自分でやる」と止まった母の手から刷毛を取って、器用に自分の背中の埃を払う。
 エリオットは母の袖を軽く引っ張った。
「母さん、兄ちゃんが魔物からみんなを守ってくれたんだよ。すごかったんだから!」
「まあ、ルイスは勇敢ね。詳しい話は後で聞かせてくれる? もう夕食は器によそうだけだから、食卓に着いて待っててくれる?」
 ルイーズは二人に「手もしっかり洗うのよ」と言い残して台所の方へと向かった。

 子供達が手を洗っている間に、食卓には鍋敷きが敷かれ、温かい出来たてのシチューの入った鍋が置かれる。
 エリオットは木製の皿に好物のシチューが注がれるのを見て、まだかまだかと目を輝かせた。
 食卓に並んだ献立は、兎肉と野菜のシチュー、母が朝に焼いた手製パン、村で採れた新鮮な野菜のサラダ、エリオットが手伝って作った瓜のピクルス。
 デザートには、父が狩りの帰りに森で採って来た木苺が添えられた。
 夕食の支度が整う頃には丁度父も魚の処理を終えて席に着き、家族揃っての食事となった。
「いただきまーすっ!」
 エリオットは誰よりも早く、木製の(さじ)を手にシチューを頬張る。見る見る内に器の底が見え、ルイーズはそれを微笑ましく見つめていた。
「どう、美味しい?」
「うん! やっぱり母さんのシチューは最高だよ! おかわりしていい?」
 エリオットは空になったシチューの容器を母に見せ、シチューのおかわりを催促した。ルイーズは喜んで「もちろんよ」と容器を受け取り、鍋からよそってあげる。
「本当にエリオットはウサギのシチューが好きだな」
 エルドは嬉しそうにシチューのおかわりを貰うエリオットを見て笑った。
「だって、美味しいんだもん」
「ははは、父さんも狩ってきた甲斐があったよ。でも、父さんのおかわりも残しておいてくれよな」
 エルドは「父さんも母さんのシチューが好きだから」とエリオットに念押しする。
 村の食事は主に森に生息する兎、鹿、猪の肉と村の畑で採れた野菜で作られる。シチューに入っている兎肉もエルドが狩猟で獲り、捌いたものだ。
 ルイーズは鍋に残ったシチューの量を見て、ルイスに訊ねる。
「ルイスはおかわり、いる?」
「これで充分」
 ルイスはシチューより手製パンのほうが好みらしく、食卓の端に置かれた籠に積んであるパンに手を伸ばし、器に残ったシチューをパンの端ですくって、ゆっくりと味わって食べていた。
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🐦‍⬛からすの後書きコーナー

帰宅してからご飯までのシーンは飛ばそうかどうしようか悩みました。
でも家族のシーンって飛ばしてしまうと少なくなって、この後の出来事に感情移入しにくいかなぁと思う部分もあったり、エリオットの嗜好も出したほうがいいかなというのと、少し箸休め的な部分を挟んでもいいかなという気持ちが勝りましたね。
テロウ村はみんな自給自足で助け合って暮らしてる感じです。

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