翌朝、エリオットは魚の焼ける香ばしい匂いで目を覚まし、二段ベッドの上から梯子 を伝って下りた。
ルイスは既に起きたのか、ベッドの上にはきちんと整えられた掛け布団と敷布だけが残されていた。
エリオットも兄のように早起きして母の手伝いをするのが理想なのだが、毎回寝坊してしまう自分に呆れて溜息が出る。
エリオットは急いで寝間着から着替え、寝癖の付いた髪の毛を荒く手櫛で押さえつけるように整えて階段を下りた。
食卓に出来立ての朝食を運ぶ母の姿を見つけ、エリオットは明るい声で挨拶する。
「おはよう母さん」
「おはよう、エリオット。丁度良かった。今、魚が焼けたばかりなのよ」
母の手元には皿に乗せられた焼き魚があった。
昨日、ジェイ達と捕った川魚はアマゴというマスの一種で、焼くと皮が香ばしくて身がふわふわで美味しい。飾り切りされたパリパリの皮の間から柔らかそうな白身が覗き、レモンの輪切りとパセリが添えられていて、その見た目と香りに食欲がそそられる。
台所から、生野菜の入った鉢を持ったルイスが姿を見せる。いつもの調子で、早くから母の手伝いをしていたようだ。
「兄ちゃんおはよう」
「おはよう」
自分も朝食の支度を手伝おうと、食品棚を開けて紙袋からお茶用に乾燥させた薬草を取り出す。
「父さんは?」
「外でジェイくんのお父さんと話し込んでるみたい。気にせず先に食べてしまいましょう」
ジェイの父、トルク・クラヴィウスは話し込むと長い事で村では有名だった。エリオットはそれなら仕方ないよね、と苦笑いして食卓に着く。
食卓には少し硬いパンと焼き魚、野菜サラダ、温かいスープ、温かい薬草茶が用意され、魚が並んだ分、普段よりも少し豪華な朝食となった。
父が家の中に戻って来たのは、エリオット達が朝食を食べ終える頃だった。
「いやー、ごめんごめん。昨日の事でずいぶんと話し込んでしまったよ」
エルドはどっと疲れた顔をして食卓に着くと、妻の淹れてくれたお茶を一気に飲み干す。
ルイスは自分の食器を片付けに台所へ、エリオットは自分の空になったコップにお茶を注ぎ足して食卓に着いたまま父が食べ終わるのを待った。
ルイーズは「お疲れ様」と夫の様子に笑って、コップにお茶を注ぐ。
「魔物が出ただなんて、一大事でしたものね」
エルドはパンを頬張って頷く。
「今日は村長の家で結界と魔獣が出現した件について話し合うから、俺も結界に携わる一人として参加しろってさ」
それを聞いたエリオットは新たに入った話し合いの予定に、自分との約束を反故 にされるのではと不安がって父を見た。
「光の剣のお兄さんのところは?」
エルドはエリオットが楽しみにしていたのを忘れていないぞ、と笑みを浮かべて答える。
「もちろん、予定の変更はなしだ。ヴァイスを探しに行ってからでも充分間に合う。すぐ食べ終わるから、準備して待っててくれ」
「わかった!」
エリオットは出掛けるのを楽しみに、まずは食事の片付け、と自分の食器を足早に流しへ持って行く。
そこで丁度、自分の食器を洗い終えたルイスとすれ違う。
昨日の反応に少し期待を込めて、エリオットは声を掛けた。
「兄ちゃんは行かないの?」
「……」
ルイスは無表情のまま数秒エリオットと目を合わせるが、無言で通り過ぎ、居間に置いてある長椅子に座って分厚い本を手に取った。
エリオットは兄が瞬きする時に少し長く瞼 を閉じたのを見逃さなかった。これは兄が悩んでいる時の動作である。
「エリオット」
母が食器を洗い始めるエリオットを呼び止め、台所の突き当りにある小さい机の上に置いてある籠を持ち上げる。
「これにパンとクッキーが入っているから、もしヴァイスに会えたら渡してくれないかしら。本当は私も行きたいんだけれど、母さんはパンを焼きに行かないといけないから、会ったらよろしく言っておいてね」
「うん!」
ルイーズは出掛ける時に分かりやすいように、橙色の布が掛けられた籠を食卓の上へ置いた。
父が食事を終えてすぐ、エリオットは急かすようにして父と一緒に外出の支度をした。
エリオットは家を出る前にもう一度兄を誘おうと思ったが、支度をしている最中に先にどこかへ出掛けてしまったのか、家の中に姿が見えなかった。
少し残念に思いながら靴紐を結ぶ。
最後に母に頼まれた籠を片手に持ち、出掛ける準備が整うと、家の中に振り返って元気良く母に声を掛ける。
「行ってきます!」
「じゃあ、行って来るよ」
「気を付けて行ってらっしゃい」
ルイーズは大きく手を振るエリオットに手を振り返し、見送ってくれた。
ルイスは既に起きたのか、ベッドの上にはきちんと整えられた掛け布団と敷布だけが残されていた。
エリオットも兄のように早起きして母の手伝いをするのが理想なのだが、毎回寝坊してしまう自分に呆れて溜息が出る。
エリオットは急いで寝間着から着替え、寝癖の付いた髪の毛を荒く手櫛で押さえつけるように整えて階段を下りた。
食卓に出来立ての朝食を運ぶ母の姿を見つけ、エリオットは明るい声で挨拶する。
「おはよう母さん」
「おはよう、エリオット。丁度良かった。今、魚が焼けたばかりなのよ」
母の手元には皿に乗せられた焼き魚があった。
昨日、ジェイ達と捕った川魚はアマゴというマスの一種で、焼くと皮が香ばしくて身がふわふわで美味しい。飾り切りされたパリパリの皮の間から柔らかそうな白身が覗き、レモンの輪切りとパセリが添えられていて、その見た目と香りに食欲がそそられる。
台所から、生野菜の入った鉢を持ったルイスが姿を見せる。いつもの調子で、早くから母の手伝いをしていたようだ。
「兄ちゃんおはよう」
「おはよう」
自分も朝食の支度を手伝おうと、食品棚を開けて紙袋からお茶用に乾燥させた薬草を取り出す。
「父さんは?」
「外でジェイくんのお父さんと話し込んでるみたい。気にせず先に食べてしまいましょう」
ジェイの父、トルク・クラヴィウスは話し込むと長い事で村では有名だった。エリオットはそれなら仕方ないよね、と苦笑いして食卓に着く。
食卓には少し硬いパンと焼き魚、野菜サラダ、温かいスープ、温かい薬草茶が用意され、魚が並んだ分、普段よりも少し豪華な朝食となった。
父が家の中に戻って来たのは、エリオット達が朝食を食べ終える頃だった。
「いやー、ごめんごめん。昨日の事でずいぶんと話し込んでしまったよ」
エルドはどっと疲れた顔をして食卓に着くと、妻の淹れてくれたお茶を一気に飲み干す。
ルイスは自分の食器を片付けに台所へ、エリオットは自分の空になったコップにお茶を注ぎ足して食卓に着いたまま父が食べ終わるのを待った。
ルイーズは「お疲れ様」と夫の様子に笑って、コップにお茶を注ぐ。
「魔物が出ただなんて、一大事でしたものね」
エルドはパンを頬張って頷く。
「今日は村長の家で結界と魔獣が出現した件について話し合うから、俺も結界に携わる一人として参加しろってさ」
それを聞いたエリオットは新たに入った話し合いの予定に、自分との約束を
「光の剣のお兄さんのところは?」
エルドはエリオットが楽しみにしていたのを忘れていないぞ、と笑みを浮かべて答える。
「もちろん、予定の変更はなしだ。ヴァイスを探しに行ってからでも充分間に合う。すぐ食べ終わるから、準備して待っててくれ」
「わかった!」
エリオットは出掛けるのを楽しみに、まずは食事の片付け、と自分の食器を足早に流しへ持って行く。
そこで丁度、自分の食器を洗い終えたルイスとすれ違う。
昨日の反応に少し期待を込めて、エリオットは声を掛けた。
「兄ちゃんは行かないの?」
「……」
ルイスは無表情のまま数秒エリオットと目を合わせるが、無言で通り過ぎ、居間に置いてある長椅子に座って分厚い本を手に取った。
エリオットは兄が瞬きする時に少し長く
「エリオット」
母が食器を洗い始めるエリオットを呼び止め、台所の突き当りにある小さい机の上に置いてある籠を持ち上げる。
「これにパンとクッキーが入っているから、もしヴァイスに会えたら渡してくれないかしら。本当は私も行きたいんだけれど、母さんはパンを焼きに行かないといけないから、会ったらよろしく言っておいてね」
「うん!」
ルイーズは出掛ける時に分かりやすいように、橙色の布が掛けられた籠を食卓の上へ置いた。
父が食事を終えてすぐ、エリオットは急かすようにして父と一緒に外出の支度をした。
エリオットは家を出る前にもう一度兄を誘おうと思ったが、支度をしている最中に先にどこかへ出掛けてしまったのか、家の中に姿が見えなかった。
少し残念に思いながら靴紐を結ぶ。
最後に母に頼まれた籠を片手に持ち、出掛ける準備が整うと、家の中に振り返って元気良く母に声を掛ける。
「行ってきます!」
「じゃあ、行って来るよ」
「気を付けて行ってらっしゃい」
ルイーズは大きく手を振るエリオットに手を振り返し、見送ってくれた。
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このあたりもかなり悩んだ部分。
ここでは父がトルクさん(ジェイのお父さん)と話した内容を家族に話して説明っぽいセリフがだらだら~っと続きそうだったんだけど、あまり家庭での会話にならないよなぁと。しかもこの後出かける予定があるのに、そんな長ったらしく話す?となって、書き直し書き直しですぅぅぅ_(:3」 ∠)_
ルイスは無表情だけどエリオットにはわかっちゃってるよ感が出てます。
ん?あれ???こういう設定なんか既視感あるような……DuMitMirかな?※SilverHeartsで作ったゲームタイトルのひとつ
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