2025-10-04

Dark Hunter / 序幕〈16〉

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 しんと辺りは静まり返る。
 聞き間違いだったのではと、エリオットは信じがたい話に動揺する。
「なんだって」
 ルイスもジェイの話に冷静さを無くしたようで、声を低くして言った。

 いつもひょうきんな態度のジェイだが、今ばかりは表情は青ざめ、気の強い黒い瞳は今にも泣きそうに見えた。
「俺は、エルドさんから、エリオットたちと一緒にいる術剣士の人を呼んで来てくれって頼まれたんだ」
 ジェイはそう言って、ヴァイスを見た。
「お兄さんが、術剣士の……」
 ジェイはヴァイスの特徴的な容姿から、彼が先日魔獣から救ってくれた人物だとすぐに気付き、強張っていた表情を和らげる。
「詳しい状況を教えてくれないか」
 ヴァイスに頼まれ、ジェイは強く頷いて話し出す。
「教団のヤツら、子供たちを人質にとって、結界を消せって脅したんだ! 何人か、子供を助けようとしてやられて……し、死んだ人もいる……」
 ジェイは視線を落として拳を握り締め、次第に顔を歪めていく。
 そのジェイの声は震えていた。
 エリオットは死んだ人もいると聞いて、肝が冷えていく感覚を覚えた。
 同じテロウの村人ならば、誰もが大抵は知り合いである。病気や寿命で亡くなるだけでも悲しいというのに、何者かによって害されてしまったとなれば、ひどく胸が痛い。
 ヴァイスは続けて、落ち着いた声で訊ねる。
「その教団の人数はわかるかい?」
「俺が見ただけでも、ざっと十人。どいつも武装してて、そ、それで……人間じゃ、ないみたいだった……」
 ジェイは村であった恐ろしい出来事を思い出し、奥歯を鳴るほど噛み締める。  そして、地面を見つめていた顔を勢い良く上げ、真っ直ぐにヴァイスと目を合わせて言った。
「なあ、お兄さん……お願いだよ。みんなを助けてくれよ! あの時の、魔獣の時みたいにさ!」
 声を張り上げ、ジェイはすがるように懇願した。
 魔獣を一撃で仕留めたこの人なら、皆を助けてくれるという期待を感情のままにぶつけた。
「もちろん。テロウ村の人達には助けられた恩がある。力になろう」
 ヴァイスは足先を村のある西へ向け、ジェイに振り返って訊ねる。
「教団はまだ村にいるのか?」
 ジェイは頭を振った。
「いない、と思う。ヤツらは、人質にした子供たちを連れて、結界塔に行ったんだ。エルドさんは仲間がいるかもしれないから警戒したほうがいいって傭兵を残して行ったけど……」
 ヴァイスはジェイから聞いた情報から、優先すべき行動を決め、頷いて見せる。
「わかった。君たちは、ひとまず大人と合流したほうがいいだろう。充分に気を付けて村へ戻りなさい」
 ヴァイスは白い外套をひるがえし、素早い身のこなしで高く跳躍して背丈の三倍もの高さのある木の枝の上へ飛び乗る。
「君たちに、精霊の加護を」
 そう言い残すと、ヴァイスは枝から枝へと飛び移って行き、瞬く間に見えなくなった。

 ヴァイスが去った事で再び静寂が訪れ、森の中には三人の小さな影だけが残された。
 エリオットは森の空気が変わり、草木の葉擦れの音や影が不気味で居心地が悪くなったように感じた。
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次週土曜更新予定
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🐦‍⬛からすの後書きコーナー

不穏です。
いつも強気で悪戯っ子のジェイがトラウマレベルな事が起きてしまって、ジェイの内心を考えると書いてる側もこう、感情の共感みたいなのがあってツラい…

からす、お前えぇ!なんでこんな物語にしたぁ!(_`・ω・)_バァン

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