2025-09-27

Dark Hunter / 序幕〈15〉

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 エリオット達はお茶とおやつを口にしながら十五分ほど休憩した後、またそれぞれ精霊術と剣術の練習に励んだ。
 再び水の精霊を見る事こそ叶わなかったが、エリオットはこの五日間の中で上達しているという確かな手応えを感じていた。
 兄の様子を見ても、教わる初日に比べて上達しているのが目に見えて分かった。
 今の兄なら、あの時対峙した魔獣に一人でも立ち向かえてしまうのではないかという勢いだ。

 ヴァイスが手を打ち鳴らす。
「さて、今日はここまでにしよう」
 夢中になって練習している内に、日は高く上っていたようだ。
 ヴァイスは二人を手招きして自分の前に呼ぶ。
「二人とも、お疲れ様。明日は村の仕事は休みのようだけど、君たちも術の指南は休みにしようか?」
「ううん。早く上手くなりたいから、明日も術を教えてほしい!」
 水の精霊を見た感動で、エリオットは上達への意欲が高まっていた。
「お父さんも一日休みのようだし、家族で団欒したほうが良いんじゃないか?」

 六日ある一週間の内、村の仕事が休みの日は、地の日アルタスの一日だけである。
 この世界では一週間は六日で、日によって特定の精霊の力が増幅される現象を基に、精霊にちなんだ名称が付けられている。
 順に地の日アルタス、炎の日デラス、風の日ミーアス、水の日フェアネス、氷の日ヴィリネス、雷の日ケルネス。
 太陽の上る時間は光の力が増幅され、太陽が落ちている時間は闇の力が増幅されるため、昼間はサルアスと夜間はデュラネスと精霊の名を持つ呼び名があるが、一般的にアミヤ語を使わない現代では儀礼的な場面でしか使用されない。

「あいつはいい」
 珍しくルイスが返答し、エリオットはその意思表示に苦笑いした。
 人として一人前と認められる十五歳も間近なルイスに対し、父は最近何かと干渉しようとしてくるのだが、ルイスはそれを鬱陶(しく感じていた。
 分かる人が見れば、その態度は思春期特有の父親を煙たがる子供そのものである。
「そ、そうか……」
 冷たいルイスの返事に、ヴァイスはあの子煩悩(ぼんのう)のエルドが聞いたら悲しむな、と不憫(ふびん)に思った。
 こほん、と咳込んで、ヴァイスは仕切り直す。
「それなら、明日もここで同じ時間に集合でいいかい?」
「うん!」
 元気良く返事をしたエリオットの横で、ルイスも承知して静かに頷く。
「明日はルイスの魔剣の強化を中心に教えようと思う。エリオットはだいぶ術の扱いが上手くなってきたようだから、そろそろ一緒に術で武器を作り出す造形術の練習をしてみようか」
「ほんとっ?!」
 武器を作る術と聞いて、エリオットは食い気味に声を上げた。
 兄やヴァイスの姿に憧れるエリオットにとって、魔剣は「かっこいい」の象徴なのである。
「俺も兄ちゃんやヴァイスさんみたいな魔剣が作れるようになる?」
「一日では難しいけれど、練習すればできるさ。造形術は術の精度の向上に役立つ技術だから、やり方を知っておいて損はないはずだよ」
「やったぁ!」
 エリオットの跳ねて喜ぶ様子に、ヴァイスは口に手を当てて微笑んだ。
「ふふ、喜んでくれると教え甲斐があるよ」
「造形術かぁ……楽しみ!」
 明日が楽しみで仕方がないと興奮気味に話すエリオットにつられてか、ルイスの口角がわずかに上がった。

 エリオットは「また明日」とヴァイスと挨拶をして別れるつもりだったが、突然、茂みの揺れるガサガサと大きな音と共に近くで鳴いていた鳥達が一斉に飛び立ち、和やかな空気は剣呑(けんのん)なものへと一変した。
 三人は何事かと、こちらへ向かって来る音の方へ振り返る。

「……あっ、いた! ルイス! エリオット!」
 気配の正体はジェイだった。ルイスとエリオットを見つけて慌てた様子で茂みの間を縫うようにこちらへ駆けて来た。  ジェイは近くに来ると、ようやく走る速度を落とし、自分に落ち着けと言い聞かせるように胸に手を当てて呼吸を整える。
「そんなに慌ててどうしたの、ジェイ?」
 エリオットは不安そうに、肩で息をするジェイの顔を覗く。
 ちょっと待って、とジェイは無言で手のひらをかざし、一呼吸おいてから話した。

「はぁ、はぁ……ルイス、エリオット、大変だ。ハイルたちがファズガル教団とかいう奴らにさらわれて、エルドおじさんたちが戦ってる」
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🐦‍⬛からすの後書きコーナー

……はいっ。
書いてるうちに急に不穏になりました。こんなつもりじゃなかったんですよー!
最初考えてたプロットで違う事件が起きるはずだったんだけど「犯人の動機なんだっけ?あれ?おかしくない?」ってなって考えた後、事件終わって何事もなく翌日になって~で流れて序幕ラストの展開入ったら不自然じゃない?になってしまったんです…序幕ラストは確定の展開なので、そこだけは譲れず。ここからラストに繋がってしまいました…
和やかだったのに不穏モードへ急下降でジェットコースターになって心臓に悪い。。。

というわけで、次回からちょっと(そこそこ?)残酷描写が入ります。
残酷描写がある回は投稿の冒頭に注意書きしておきます。文章でもやっぱ怖いのは嫌じゃないですかー

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