五日の間、エリオットとルイスはそれぞれ精霊術と剣術をヴァイスから教わった。
ヴァイスは教えるのに不慣れだと言っていたが、理解しやすい言葉を選んだ理論と実践の感覚を交えた丁寧な指導に、二人は日を追うごとに目に見えて上達していった。
「兄ちゃん、見て見て!」
弟の呼び掛けに、少し離れた所で剣の練習をしていたルイスは手を止めてエリオットに注目した。
エリオットは両手を宙にかざし、水の塊を集めて顔の大きさほどの水泡を作って見せる。
水泡は数秒で弾け飛ぶと大きな飛沫が舞い上がり、飛沫の塊が生き物のような形を作り出した。
エリオットは予測していなかった不思議な現象に驚き、口を小さく開けたまま宙を見つめる。
飛沫は幻想的にも光の加減で虹を帯び、上半身が鹿、下半身が魚の姿となって宙を泳ぎ、ふわりと宙に溶け込むように消えていった。
「今のって……」
エリオットはぼんやりと宙を見つめたまま、ぽつりと呟く。
ルイスはエリオットの横に並んで、鹿と魚の姿を持つ不思議な存在の消えた方向を一緒に見つめる。
「水の精霊プルーテュス」
ルイスが不思議な存在の正体を教えると、エリオットは驚嘆の表情を浮かべ、目を輝かせる。
「あれが精霊なの? 初めて見た!」
「上手く精霊を扱えた証拠だよ」
嬉しそうなエリオットを見て、ヴァイスは笑顔で話した。
「君は水の精霊と相性が良いから、精霊が姿を見せたんだろうね。もっと術の理解が進めば、今のようにプルーテュスが見えるよ」
「そうなんだ! よーし、じゃあ、もっと頑張って見えるようにならなきゃ!」
エリオットはもう一度プルーテュスを見るんだと意気込み、再び手のひらに魔力を集中させて練習に励もうとする……が、ヴァイスはエリオットの肩に手を置いて練習を止めた。
「エリオット君、待って。少し休憩しよう」
「えーっ」
調子が乗ってきたところでの休憩の提案に、調子に乗ってきたのに、と残念がる。
その様子に、ヴァイスは優しく理由を説明した。
「魔力を一度に使い続けると疲れてしまうからね。この後はお父さんと銃の練習を約束しているんだろう? そのためにも、休憩は必要だよ」
今日は父の仕事は午前中で終わるため、昼から父に銃の使い方を教えてもらう約束をしていた。
「はぁい……」
やっとの事で父と銃の練習の約束を取りつけて楽しみにしているエリオットは、観念して広場の切り株に座った。
魔力が生命と結びついている事は、精霊術を学ぶ以前に家庭や学び舎で教わる基礎的な知識だ。
魔力は血液と共に体内で作られ、循環しており、体内の魔力が大幅に下回ると魔力欠乏症を引き起こし、眩暈や倦怠感など貧血と似た症状が出る。
特にエリオットのように魔力が不安定な十五歳以下の子供の場合、加減が分からずに魔力を使い過ぎて倒れてしまう事例は多く、注意が必要なのである。
続いて、ルイスもヴァイスに休憩を促され、エリオットの隣に座る。
「ルイスも、剣術の基本の型が身に付いて、踏み込みが良くなった」
ヴァイスの言葉に、ルイスは目を細めて地面を見つめた。一見、睨んで不機嫌になったようにも見えるが、この仕草は褒められて照れているのである。
「まだ動きか術、どちらかにに集中してしまって魔剣の特徴を活かし切れていないが、鍛錬次第といったところだ。飲み込みが早いから、コツさえ掴めばすぐできるようになるだろう」
ルイスはヴァイスの助言に対し、軽く会釈する。
「褒められたね、兄ちゃん」
エリオットは嬉しそうな兄を見て、自分も嬉しくなって笑いかけた。
「二人とも頑張っているから、これをあげよう」
ヴァイスは手のひらに視線を集中させ、数秒握り締める。握り締めた手に光がまとった後、手を開くと、何も無かった手のひらの上には、手品のように二つの輝く石が現れていた。
ヴァイスはエリオットにその内の水色に輝く石を、ルイスには瑠璃色に輝く石を渡す。
それは宝石の原石のように歪な形をしていたが、手のひらに乗せると精霊の気配を感じた。
「これは、精霊石?」
ルイスは光の宿った石を見つめて言った。
エリオットは「えっ!」と声を出して驚いた。
「精霊石って、高価なんだよね? いいの?」
精霊石は魔力の塊でできた鉱石で、自然に採れる事は少なく、ほとんど流通していない、希少価値の高い物である。
大気中にある微量な魔力を吸収、蓄積する性質を持ち、身に着けた術者の魔力を補えるため、高位の精霊術士は大金をはたいても手に入れたい品として有名なのだ。
「遠慮しなくていい。君たちは精霊に好かれているから、この精霊石の持ち主に相応しい。ほんの、お守りのような物だと思って受け取ってくれ」
手のひらの上で、精霊石は自らの力で水中に日が射し込んだような淡い光を放ち続けている。
エリオットは照れくさくも嬉しそうに光を放つ精霊石をそっと手のひらで包み込む。
「ありがとう、ヴァイスさん!」
ルイスは礼の代わりに無言でじっとヴァイスの目を見つめた後、紐で首から下げていた小さな皮袋を取り出して、瑠璃色の精霊石をしまい込んだ。
ヴァイスは教えるのに不慣れだと言っていたが、理解しやすい言葉を選んだ理論と実践の感覚を交えた丁寧な指導に、二人は日を追うごとに目に見えて上達していった。
「兄ちゃん、見て見て!」
弟の呼び掛けに、少し離れた所で剣の練習をしていたルイスは手を止めてエリオットに注目した。
エリオットは両手を宙にかざし、水の塊を集めて顔の大きさほどの水泡を作って見せる。
水泡は数秒で弾け飛ぶと大きな飛沫が舞い上がり、飛沫の塊が生き物のような形を作り出した。
エリオットは予測していなかった不思議な現象に驚き、口を小さく開けたまま宙を見つめる。
飛沫は幻想的にも光の加減で虹を帯び、上半身が鹿、下半身が魚の姿となって宙を泳ぎ、ふわりと宙に溶け込むように消えていった。
「今のって……」
エリオットはぼんやりと宙を見つめたまま、ぽつりと呟く。
ルイスはエリオットの横に並んで、鹿と魚の姿を持つ不思議な存在の消えた方向を一緒に見つめる。
「水の精霊プルーテュス」
ルイスが不思議な存在の正体を教えると、エリオットは驚嘆の表情を浮かべ、目を輝かせる。
「あれが精霊なの? 初めて見た!」
「上手く精霊を扱えた証拠だよ」
嬉しそうなエリオットを見て、ヴァイスは笑顔で話した。
「君は水の精霊と相性が良いから、精霊が姿を見せたんだろうね。もっと術の理解が進めば、今のようにプルーテュスが見えるよ」
「そうなんだ! よーし、じゃあ、もっと頑張って見えるようにならなきゃ!」
エリオットはもう一度プルーテュスを見るんだと意気込み、再び手のひらに魔力を集中させて練習に励もうとする……が、ヴァイスはエリオットの肩に手を置いて練習を止めた。
「エリオット君、待って。少し休憩しよう」
「えーっ」
調子が乗ってきたところでの休憩の提案に、調子に乗ってきたのに、と残念がる。
その様子に、ヴァイスは優しく理由を説明した。
「魔力を一度に使い続けると疲れてしまうからね。この後はお父さんと銃の練習を約束しているんだろう? そのためにも、休憩は必要だよ」
今日は父の仕事は午前中で終わるため、昼から父に銃の使い方を教えてもらう約束をしていた。
「はぁい……」
やっとの事で父と銃の練習の約束を取りつけて楽しみにしているエリオットは、観念して広場の切り株に座った。
魔力が生命と結びついている事は、精霊術を学ぶ以前に家庭や学び舎で教わる基礎的な知識だ。
魔力は血液と共に体内で作られ、循環しており、体内の魔力が大幅に下回ると魔力欠乏症を引き起こし、眩暈や倦怠感など貧血と似た症状が出る。
特にエリオットのように魔力が不安定な十五歳以下の子供の場合、加減が分からずに魔力を使い過ぎて倒れてしまう事例は多く、注意が必要なのである。
続いて、ルイスもヴァイスに休憩を促され、エリオットの隣に座る。
「ルイスも、剣術の基本の型が身に付いて、踏み込みが良くなった」
ヴァイスの言葉に、ルイスは目を細めて地面を見つめた。一見、睨んで不機嫌になったようにも見えるが、この仕草は褒められて照れているのである。
「まだ動きか術、どちらかにに集中してしまって魔剣の特徴を活かし切れていないが、鍛錬次第といったところだ。飲み込みが早いから、コツさえ掴めばすぐできるようになるだろう」
ルイスはヴァイスの助言に対し、軽く会釈する。
「褒められたね、兄ちゃん」
エリオットは嬉しそうな兄を見て、自分も嬉しくなって笑いかけた。
「二人とも頑張っているから、これをあげよう」
ヴァイスは手のひらに視線を集中させ、数秒握り締める。握り締めた手に光がまとった後、手を開くと、何も無かった手のひらの上には、手品のように二つの輝く石が現れていた。
ヴァイスはエリオットにその内の水色に輝く石を、ルイスには瑠璃色に輝く石を渡す。
それは宝石の原石のように歪な形をしていたが、手のひらに乗せると精霊の気配を感じた。
「これは、精霊石?」
ルイスは光の宿った石を見つめて言った。
エリオットは「えっ!」と声を出して驚いた。
「精霊石って、高価なんだよね? いいの?」
精霊石は魔力の塊でできた鉱石で、自然に採れる事は少なく、ほとんど流通していない、希少価値の高い物である。
大気中にある微量な魔力を吸収、蓄積する性質を持ち、身に着けた術者の魔力を補えるため、高位の精霊術士は大金をはたいても手に入れたい品として有名なのだ。
「遠慮しなくていい。君たちは精霊に好かれているから、この精霊石の持ち主に相応しい。ほんの、お守りのような物だと思って受け取ってくれ」
手のひらの上で、精霊石は自らの力で水中に日が射し込んだような淡い光を放ち続けている。
エリオットは照れくさくも嬉しそうに光を放つ精霊石をそっと手のひらで包み込む。
「ありがとう、ヴァイスさん!」
ルイスは礼の代わりに無言でじっとヴァイスの目を見つめた後、紐で首から下げていた小さな皮袋を取り出して、瑠璃色の精霊石をしまい込んだ。
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魔力は生命力と似た何かっていう説明したっけ?と、ここで取り入れてみる。
自分でこの設定は気に入っていて、ファンタジーでもちょっと理屈っぽくて好きだなって思ってる部分なので重要です。
「魔物」と「生物」っていう存在についてもこれで説明がついて、魔力はなんかこう精神的な、霊的なもので、魔物は実体を持たなかったり寿命が長かったりするけど、生物は魔力はあるけどもっと物質的というか…もともと別の次元の存在だったのかなぁみたいな。
できるだけオリジナルでファンタジー世界を創りたいって思ってたけど「なんとなく」「ファンタジーだから」だけで済ませたくない部分があってこんな感じになりました。
あ、ちなみに、ここから序幕は後編に入ります。
また10話以上あるの?って自分でも思ってるんですけど、今年中に終わらせるつもり!とか考えてます。
あとどれくらい?…あと12週の連載で12月入るの???
じゃあやっぱまだ10話は序幕かなぁ…(遠い目)
後編はちょっと不穏な空気が入って来るかと思います。がんばれエリオくん…
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