ぐすっ、と鼻をすする水っぽい音が聞こえ、隣を見ると、ジェイが声を抑えて泣いていた。
鼻水で詰まってしまった鼻は息を吸う度に、ぐすっと音を立てる。
これまで泣くのをこらえていたのか、緊張が切れた途端に止まらなくなってしまったようだった。
「ジェイ……」
エリオットは困惑しつつ、ベルトの小物入れからハンカチを取り出してジェイに差し出すが、ジェイがハンカチを受け取る様子は無く、慌てて代わりに慰める言葉を探す。
しかし、「大丈夫だよ」「ヴァイスさんは強いから、みんなを助けてくれるよ」と、思い付いた言葉はエリオットの口から出る事は無かった。
ジェイは大好きだった祖父の葬儀でも、父親からきつく怒られた時でさえ、こんなに不安定になった事は無かった。
下手な言葉を掛けても逆効果なのではないかと、エリオットは片手にハンカチを握り締め、唇を堅く結んで、ただただ泣いているジェイを見つめるばかりだった。
ルイスはジェイが落ち着くのを静観して待っていたようだったが、痺れを切らしたのか、二人に声を掛けた。
「……村へ戻るぞ」
ヴァイスの言った通り、今は村へ戻って大人と合流する事が賢明だとルイスは判断した。
子供達が人質としてさらわれてしまった今、合流する事で自分たちの無事を報せ、必要以上の混乱を避ける効果がある。
村の被害状況によってはジェイやエリオットの精神状況が今以上に不安定になってしまうが、それが避けられない事であり、それらは全て、遅れてしまえばしまうほど悪い方に転んでしまうとルイスは予感していた。
「ジェイ、行こう?」
エリオットはジェイの堅く握り締められた拳に手を伸ばすが、ジェイの拳はエリオットの手のひらを拒否するように引っ込められ、その腕で荒っぽく涙を拭った。
「ちくしょう……っ! ファズガル教団、許さねぇ!」
ジェイは感情的になり、一人で村の方へ駆け出す。
その一瞬に見たジェイの瞳には、炎が燃え盛るような揺らぎのある光を宿していた。
エリオットは嫌な予感がした。
「待って! ジェイ」
引き留めようと声を掛けるが、ジェイは振り返らずに村の方へ走って行く。
「ジェイ!」
追いかけようと、エリオットは不安定な地面を蹴って走り出すが、ジェイの足の速さと木の根や絡まる草に足下が覚束ずにどんどん距離は開いていった。
ルイスは後から来たにも関わらず、足場の悪い地形に慣れた様子でエリオットに追い付き、並走する。
「エリオットは、母さんを頼む」
「えっ、に、兄ちゃん?!」
ルイスはジェイが結界塔に向かうつもりだと察していた。
ルイスは走る速度を上げ、木々と茂みの間を縫ってジェイの後を追って行く。
エリオットはすぐに距離を引き離され、とうとう二人の姿を見失ってしまう。
エリオットの運動神経は並であったが、ルイスとジェイは村の中で足速さを競えば三本の指に入り、比較にならない。
森の中を走る内に、エリオットはハイルが「足だけは得意だからね!」と自慢そうに話していたのを思い出す。
村の子供の中で何かしら競えばいつも一位か二位の座に君臨するのはルイスかジェイだが、運動神経の良い二人でも、駆けっこはいつも一位にはなれず、常に一位を獲得していたのはハイラプキンだった。
エリオットはハイルの無事を強く願った。
鼻水で詰まってしまった鼻は息を吸う度に、ぐすっと音を立てる。
これまで泣くのをこらえていたのか、緊張が切れた途端に止まらなくなってしまったようだった。
「ジェイ……」
エリオットは困惑しつつ、ベルトの小物入れからハンカチを取り出してジェイに差し出すが、ジェイがハンカチを受け取る様子は無く、慌てて代わりに慰める言葉を探す。
しかし、「大丈夫だよ」「ヴァイスさんは強いから、みんなを助けてくれるよ」と、思い付いた言葉はエリオットの口から出る事は無かった。
ジェイは大好きだった祖父の葬儀でも、父親からきつく怒られた時でさえ、こんなに不安定になった事は無かった。
下手な言葉を掛けても逆効果なのではないかと、エリオットは片手にハンカチを握り締め、唇を堅く結んで、ただただ泣いているジェイを見つめるばかりだった。
ルイスはジェイが落ち着くのを静観して待っていたようだったが、痺れを切らしたのか、二人に声を掛けた。
「……村へ戻るぞ」
ヴァイスの言った通り、今は村へ戻って大人と合流する事が賢明だとルイスは判断した。
子供達が人質としてさらわれてしまった今、合流する事で自分たちの無事を報せ、必要以上の混乱を避ける効果がある。
村の被害状況によってはジェイやエリオットの精神状況が今以上に不安定になってしまうが、それが避けられない事であり、それらは全て、遅れてしまえばしまうほど悪い方に転んでしまうとルイスは予感していた。
「ジェイ、行こう?」
エリオットはジェイの堅く握り締められた拳に手を伸ばすが、ジェイの拳はエリオットの手のひらを拒否するように引っ込められ、その腕で荒っぽく涙を拭った。
「ちくしょう……っ! ファズガル教団、許さねぇ!」
ジェイは感情的になり、一人で村の方へ駆け出す。
その一瞬に見たジェイの瞳には、炎が燃え盛るような揺らぎのある光を宿していた。
エリオットは嫌な予感がした。
「待って! ジェイ」
引き留めようと声を掛けるが、ジェイは振り返らずに村の方へ走って行く。
「ジェイ!」
追いかけようと、エリオットは不安定な地面を蹴って走り出すが、ジェイの足の速さと木の根や絡まる草に足下が覚束ずにどんどん距離は開いていった。
ルイスは後から来たにも関わらず、足場の悪い地形に慣れた様子でエリオットに追い付き、並走する。
「エリオットは、母さんを頼む」
「えっ、に、兄ちゃん?!」
ルイスはジェイが結界塔に向かうつもりだと察していた。
ルイスは走る速度を上げ、木々と茂みの間を縫ってジェイの後を追って行く。
エリオットはすぐに距離を引き離され、とうとう二人の姿を見失ってしまう。
エリオットの運動神経は並であったが、ルイスとジェイは村の中で足速さを競えば三本の指に入り、比較にならない。
森の中を走る内に、エリオットはハイルが「足だけは得意だからね!」と自慢そうに話していたのを思い出す。
村の子供の中で何かしら競えばいつも一位か二位の座に君臨するのはルイスかジェイだが、運動神経の良い二人でも、駆けっこはいつも一位にはなれず、常に一位を獲得していたのはハイラプキンだった。
エリオットはハイルの無事を強く願った。
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これがフラグってやつですかね……何が、とは言わないけど。
ちなみに、エリオくんは大抵の能力は良くも悪くも「並」です。
ずば抜けて何かが得意ということはなくて、努力して伸びるタイプで、教えるのが得意な人に師事したら劇的に上手くなる可能性は持ってる…みたいな。
ヴァイスは教える自信ないわ~って主張してたけど教え方が上手い人だったので、たった数日の指導にもかかわらず、この段階でエリオくんの精霊術はだいぶ上達してるはずです。
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