2025-11-01

Dark Hunter / 序幕〈20〉

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含まれる表現

死を連想させる描写
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 塔の広間の中央には、村長のイヴァンと村の子供シャムとオージーが倒れていた。
 周囲の壁にはファズガル教団であろう三体の死体が転がっており、胸には銃弾の痕がある。
 この場に脅威が無い事を確認して、エリオットは中央の三人のもとへ駆け寄る。

 イヴァンは左肩からばっさりと斬られ、即死だったのだろう。大量の血溜まりの中でこと切れていた。
「村長さん……」
 イヴァンはとても優しく、頼りになる村長として村人達から好かれていた。
 エリオットもその村人の一人であり、何より、イヴァンは親友ハイルの父親でもある。
 ハイルがこの事を知ったらとても悲しむだろうと、エリオットはいたたまれない気持ちになった。
 エリオットは涙ぐんで、村長の遺体から気を逸らすように、うつ伏せに倒れ込む二人の前に移動して膝を付いた。

 二人はうつ伏せのまま、呼吸をする様子もなく静かに横たわったままだ。
 エリオットは震える手で、うつ伏せになっていたシャムを抱き起こそうとする。
「シャム、オージー」
 ひんやりとした石造りの床と辺りの血生臭さが嫌な予感を加速させた。

 ……胴が動くと、シャムの頭があり得ない方向に転がる。
 見ると、二人の首は折られており、既に息は無かった。

「シャ……シャム……オージー……」
 エリオットはシャムを支えていた腕を無気力に投げ出し、ゆっくりと二人の遺体から後退る。
 二人はエリオットにとって、可愛い年下の友人だった。
 シャムは怖がりで夜は一人で眠れず、よく友達にからかわれていた。オージーは甘えん坊で母親のそばを離れない子だった。
「どうして……」

 塔の上から、怒号と気味の悪いくぐもった笑い声が響き、数発の銃声が聞こえる。
 聴き慣れた声と銃声に、父が戦っているのだと分かった。

 エリオットは上の階層へと続く階段を見つめる。
 母の言うように、ここは大人に任せて村へ戻ったほうが賢明なのかもしれないが、エリオットはこのまま村へ引き返してしまったら、父やジェイを見捨てるようで嫌だった。
 人質の子供達が殺されている今、そしてジェイがもし捕えられてしまったのであれば、ファズガル教団と対峙している父達の置かれた状況は(かんば)しくないのではないか。

 エリオットは以前、父と村長の許可を得て塔の上階まで見学した時の事を思い出す。
 塔の階段を上り切った場所は三メートルほどの通路になっており、部屋の内部とは壁で隔たれていた。
 階段に近い通路の壁には縦長の窓がひとつあり、部屋の中の様子が窺えそうだった。
 通路で戦うには窮屈であるため、ファズガル教団と父は部屋の内部で戦っているだろう。
 それなら、戦いに役立つ精霊術は習っていないが、通路側の窓から様子を見ながら術で敵の気を引く事くらいはできるのではないかと、エリオットは自分ができる事を模索しながら階段を上って行く。
 塔の通路は一方通行のため、ファズガル教団が部屋から出て来るような事があったら、その時は必死に逃げるしかない。
 もし、という考えが頭に浮かぶ度、階段の上からファズガル教団が下りて来るのではという錯覚に陥り、怖くて体中が震える。

 エリオットは階段の上を見据えて深く息を吐き、覚悟を決め、一段、また一段と足を進めた。
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🐦‍⬛からすの後書きコーナー

エリオットの精神が心配になってくる展開に。
昔考えていたダークハンターの展開は、ただエリオットが村が教団の被害に遭っている事を知らずに父親から逃げろって言われてひたすら村から逃げて…って展開だったんですが、それだと軽すぎるかなと、今回はエリオットくんも教団襲撃なう。に巻き込まれるというか目撃する立場にしてしまいました。
ごめん、エリオくん……

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