2025-11-15

Dark Hunter / 序幕〈22〉

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「いい加減、その子を離したらどうだ。俺と対等に渡り合える自信があるなら、子供を人質にとっても意味がないと分かるだろう」
 エルドの張り詰めた声が聞こえた。

「ハハハ、対等だと? お前に最後の慈悲をやると言っているんだ。結界を解けば、お前も、このガキも見逃してやるとな」
 黒衣の大男の仮面の下のくぐもった声が塔の中に不気味に反響する。
 大男は余裕の態度で人間のものとは思えないゴツゴツとした大きな手のひらで軽々とジェイの首を掴み、宙に持ち上げてエルドを嘲笑(あざわら)う。
「撃ってみろ。その前に他のガキと同じように、このガキが命を落とす事になるぞ」

 エルドの足下には、黒い狼が赤い瞳を光らせて唸り、大男を威嚇している。
 エルドは銃を構え、隙を見逃さないようにそいつを睨みつけたまま動かない。
「おじさん、俺のことはもういいよ。コイツを倒してくれよ!」
 ジェイは自分がエルドの足枷となっている事に負い目を感じ、叫んだ。

「ハハハ! 愉快だ。無力なくせに飛び込んで来たと思ったら、次は自己犠牲か。よほど死にたかったようだな、ん?」
 大男は手のひらに力を入れ、ジェイの首を強く締め付ける。

「やめろ!」
 エルドは大男の腕に発砲し、黒い狼はそれを合図に大男へ向かって突進し牙を剥いた。
 しかし、大男は空いてるもう片方の手のひらで銃弾を受け止め、そのままの勢いで腕を振るって狼を壁に叩き付ける。
 狼はふらついて立ち直ろうとするが、脳震盪(のうしんとう)を起こしたのか倒れて動かなくなる。
 エルドは顔を歪め、再び発砲するが、大男の手のひらは風をまとい、放たれた銃弾を風圧で絡め取って防いだ。
 それは精霊術の性質とは異なる、魔物特有の力だった。

「人間とは滑稽だな? 無力にも関わらず、抗おうとする。なんと愚かなことか」

 エルドは悪化する状況に眉間の皺を深めた。

 一方、ヴァイスはエルドとジェイを気にしつつも、二人の教団員と激しい剣戟を繰り返しており、エルドに加勢できる様子ではない。
 剣戟の音は絶え間無く続く。

「エリオット」
 ハイルは床を這ってエリオットに近付き、かすれた声で言った。

「あいつらが言ってるの、聞いたんだ。西の森は燃やされて、結界が壊れる前に、魔竜軍が……魔族の大群が、来るって。あいつら、時間稼ぎ、するつもりなんだ……村のみんなに、逃げるように……伝えて」

 ハイルは喋る度に、呼吸が荒くなっていた。
 エリオットは、顔が青ざめ今にも倒れそうに体を傾けるハイルを支える。
「ハイル……!」
「お願いだから、エリオットは生きてよ……ね」
 ハイルの瞼がゆっくりと閉じる。
 エリオットは自分の腕にもたれたハイルの全身から、ふっと力が抜けたのを感じた。

「……ハイル?」
 エリオットは動かなくなったハイルを見て、思考を止めた。
 壁を隔てた向こうからエルドの銃声と黒衣の大男の放った雷鳴が(とどろ)き、塔は揺れる。

 エルドは大男の心臓を狙って撃ったようだが、大男は銃弾を受けてもなお得意げな表情でエルドを見下ろし、不敵に笑う。
「さあ、終わりにしようじゃないか! 絶望に歪む顔を見せてみろ!」
 大男はエルドの前でジェイの首を掴んでいた手に力を込める。
「やめろぉっ!」
 エルドは成す術もなく叫ぶ。

 ハイルを失い、呆けていたエリオットは父の叫び声で窓に注目し、大男の手から逃れようと必死にもがくジェイを見た。
 エリオットの目は見開いたまま、指の一本も動かせなかった。
 力になりたい一心でここまで来たにも関わらず、友達の死を前にエリオットは無力であった。
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🐦‍⬛からすの後書きコーナー

エリオット、まだ子供だもん……
怖かったら足が竦んで当然だし、大人の死体も友達の死も見ちゃってショッキングすぎるでしょ……
この後の展開もあまりポジティブるんるんじゃないので注意です。

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