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ハナトキの森に群生するガウクフラークという広葉樹は魔物を惑わす魔力だけでなく頑丈で耐火作用があり、容易に燃え広がるものではなかった。
だからこそハナトキの森は魔竜軍の侵入を防ぐ自然要塞として長年信頼され続けてきたのだ。
その森が今、黒い炎によって浸食されている。
エルドは窓に身を乗り出して険しい表情を浮かべた。
「黒い炎……まさか――」
黒い炎から思い当たる存在はただひとつ。
――魔竜軍の頭領、魔竜ファズガル。
魔竜ファズガルはサラマンドラという炎を操る魔物の血を引く魔族であり、伝説では「不滅の炎」と呼ばれる燃え尽きるまで消えない黒い炎を使うとされている。
有象無象の魔物が扱う火に耐え得るハナトキの樹木であっても、伝説の通りならこの状況に説明がついた。
「防衛軍は……」
黒炎は結界の境界付近から森にかけて激しく燃え盛り、黒い煙を上げて空を灰色に染め上げている。
ここまでの侵攻を許したという事は、境界を守っていた防衛軍が魔竜軍に敗れた可能性が考えられた。
抗魔結界の効果はあくまでも魔物の弱体化であり、物理的に侵入を防げるものではない。
傭兵と騎士で構成された防衛軍が常駐し、境界で魔族の侵入を防いできたお陰で結界内部の平和は守られてきたのだ。
火の手は見る間にも塔の方まで迫って来ている。
エルドは部屋に振り返って、尻もちをついて床に座り込んでいたジェイに手を差し伸べる。
「ジェイ、立てるか」
ジェイは頷き手を取り、エルドに引き上げられてようやく立ち上がる。
「おじさん、ごめんなさい。俺……」
「謝らなくていい。君が入って来なければ死んでたかもしれない状況だったんだ。むしろ感謝してる」
エルドはファズガル教団からの攻撃により危機にあったが、幸いかジェイの突撃で致命的な一撃を避ける事ができたのだ。
ジェイが来なければ恐らく、ファズガル教団の三人とヴァイスが三対一で戦う状況となり、全滅は免れなかった。
ヴァイスは廊下の気配に気付いていた様子で、真っ直ぐ部屋から出て壁にもたれかかる小さな影に声を掛けた。
「エリオット」
エリオットは青ざめた顔でヴァイスの姿を見上げた。
「ヴァイスさん……」
ヴァイスは右手で外套を手繰り寄せて負傷した左肩の傷を隠しながら、心配そうにエリオットの傍へ寄り添う。
「エリオット?」
エルドとジェイはエリオットが居る事に驚いて、すぐさま廊下へ出た。
「まさか、俺を追って?」
ジェイはエリオットを見つけると、ばつが悪そうに床に視線を落とした。
エルドは持っていた拳銃を腰ベルトの拳銃嚢 にしまい込み、屈んでエリオットを抱き締める。
「怪我はないか? 怖かっただろう」
傷だらけの父の腕の中で、エリオットは嗚咽する。
安堵と不安、複雑な感情が堰 を切ったように全身を駆け巡り、言葉は出なかった。
だからこそハナトキの森は魔竜軍の侵入を防ぐ自然要塞として長年信頼され続けてきたのだ。
その森が今、黒い炎によって浸食されている。
エルドは窓に身を乗り出して険しい表情を浮かべた。
「黒い炎……まさか――」
黒い炎から思い当たる存在はただひとつ。
――魔竜軍の頭領、魔竜ファズガル。
魔竜ファズガルはサラマンドラという炎を操る魔物の血を引く魔族であり、伝説では「不滅の炎」と呼ばれる燃え尽きるまで消えない黒い炎を使うとされている。
有象無象の魔物が扱う火に耐え得るハナトキの樹木であっても、伝説の通りならこの状況に説明がついた。
「防衛軍は……」
黒炎は結界の境界付近から森にかけて激しく燃え盛り、黒い煙を上げて空を灰色に染め上げている。
ここまでの侵攻を許したという事は、境界を守っていた防衛軍が魔竜軍に敗れた可能性が考えられた。
抗魔結界の効果はあくまでも魔物の弱体化であり、物理的に侵入を防げるものではない。
傭兵と騎士で構成された防衛軍が常駐し、境界で魔族の侵入を防いできたお陰で結界内部の平和は守られてきたのだ。
火の手は見る間にも塔の方まで迫って来ている。
エルドは部屋に振り返って、尻もちをついて床に座り込んでいたジェイに手を差し伸べる。
「ジェイ、立てるか」
ジェイは頷き手を取り、エルドに引き上げられてようやく立ち上がる。
「おじさん、ごめんなさい。俺……」
「謝らなくていい。君が入って来なければ死んでたかもしれない状況だったんだ。むしろ感謝してる」
エルドはファズガル教団からの攻撃により危機にあったが、幸いかジェイの突撃で致命的な一撃を避ける事ができたのだ。
ジェイが来なければ恐らく、ファズガル教団の三人とヴァイスが三対一で戦う状況となり、全滅は免れなかった。
ヴァイスは廊下の気配に気付いていた様子で、真っ直ぐ部屋から出て壁にもたれかかる小さな影に声を掛けた。
「エリオット」
エリオットは青ざめた顔でヴァイスの姿を見上げた。
「ヴァイスさん……」
ヴァイスは右手で外套を手繰り寄せて負傷した左肩の傷を隠しながら、心配そうにエリオットの傍へ寄り添う。
「エリオット?」
エルドとジェイはエリオットが居る事に驚いて、すぐさま廊下へ出た。
「まさか、俺を追って?」
ジェイはエリオットを見つけると、ばつが悪そうに床に視線を落とした。
エルドは持っていた拳銃を腰ベルトの拳銃
「怪我はないか? 怖かっただろう」
傷だらけの父の腕の中で、エリオットは嗚咽する。
安堵と不安、複雑な感情が
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このあたり、ジェイは駆け付けて役に立ったけど一方でエリオットは自分も助けになろうとして駆け付けたにも関わらず、何もできなかったというコントラストにしています。
思い切ってとった行動が想像通りにうまくいくとは必ずしも成り得ないのと、まあちょっとエリオくん不運だねっていうスパイスになればいいかなと。
ガウクフラークのあたりや防衛軍については端折っても良かったかもしれませんが、なるべくハナトキの森の性質や結界の境界で実はバチバチやり合ってたんだよという事は冒頭だけじゃなくこのあたりでも念押しで入れておいたほうがいいなと。
これまで見ていた表面的な「平和」はエリオくん視点だったというわけです…
防衛軍はテロウ村に出入りしている傭兵とは別で専用のキャンプがあります。
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