2025-12-13

Dark Hunter / 序幕〈26〉

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 後から上着に包んだ結界石を抱えて塔を出てきたエルドは三人と合流する。

「エリオット、ジェイ。お前たちはヴァイスとヘンザの街まで避難してくれ。俺は村に残っている人達を避難させる」

 要塞都市ヘンザはテロウ村から北東にある大都市のひとつで、要塞都市と呼ばれる名の通り防壁に囲まれた堅牢な街である。
 ヘンザにはダークハンター協会本部があり、駐屯する傭兵の数も他の都市に比べて多い。
 テロウ村では有事の際はヘンザに避難するようにと定められていた。

「エルド、結界石を持っていればお前が狙われるんじゃないか」

 結界石は精霊石の塊であり、その存在はひと目見れば分かってしまう。
 それを見越してか、エルドは結界石を脱いだ自分の上着に包んでいるものの、本能的に魔力を感知できる魔族であれば隠していても見抜かれてしまうだろうとヴァイスは危惧した。

 ヴァイスは自分が持とう、とエルドの抱える結界石に手を伸ばすが、エルドは頭を横に振る。
 エルドも、魔族が魔力を感知できる事を知らないわけではなかった。

「襲撃されても、俺一人なら対応できる。……肩をひどく負傷してる誰かさんよりは、な」
 ヴァイスは伸ばした手を引っ込め、自分の血の滲んだ肩を見て、外套を握り締める。
「……そうだな。では、私は子供達だけでも守ってみせよう」

 父とヴァイスの(ほの)暗い表情に、エリオットは不安を覚えた。
「父さんも、後から来るんだよね?」
「もちろんだ。母さんと兄ちゃんも、みんなすぐ合流できるさ」
 父はぱっと表情を変え、いつもの調子で明るく笑いエリオットの頭に手を乗せて黒い髪をくしゃくしゃになるほど撫で回した。
「ジェイ、エリオットの事を頼むな」
「は、はい」
 緊張した空気に表情を強張らせていたジェイはしっかりと頷く。

 エルドは懸念を吹っ切ったように息を吐いて、顔を上げる。
「さあ、急ごう。ハナトキの森はあまり長くもたないだろう。ファズガル教団もまだ周辺にいるかもしれない。あいつらは純粋な魔族よりも結界の影響を受けにくいようだから、くれぐれも気を付けてくれ」
「ああ。エルドも」
 エルドはヴァイスと激励の握手を交わし、エルドは一人、村の方へと走って行った。

 エリオットは視線に気付き、自分を見上げる黒狼と目を合わせた。
「狼さんも一緒に来る?」
 エリオットが声を掛けると、黒狼はふいと視線を逸らし、エルドの後を追うように森の中へ消えた。
 黒狼に親しみを覚えていただけに、エリオットは少し寂しそうに父と狼の向かった方向を見つめた。

「私たちも行こう」
 ヴァイスは村へ続く整備された道から外れた茂みの方へと進み、エリオットとジェイを先導する。
「ここから北東を目指せば、ヘンザへ向かう橋の近くまで―」

 その時、森の西から恐ろしい低音の雄叫びが聞こえ、空気が、地面が揺れる。
 腹の底から響くほどの雄叫びに、ジェイとエリオットは耳を塞いで身を竦めた。
 西の空に、巨大な竜の影と翼を羽ばたかせる複数の小さな影が見えた。
 翼を持つ小さな影は次第に大きくなる。

 ヴァイスはエリオットとジェイに茂みに隠れるように合図し、三人で木の陰になっていた茂みから様子を窺う。
 森の木々が途切れる塔周辺の空から、翼を持つ人型の魔族がテロウ村の方へ数体飛んで行くのが見えた。

「魔竜軍……!」
 ヴァイスは小声で言った。

 飛んで来た翼のある魔族は塔の前にも降り立ち、周囲の状況を確認し始める。
 ヴァイスはエリオットとジェイを連れ、塔周辺にいる魔族に見つからないように、ゆっくり歩を進めて音を最小限に抑え、木々と茂みの合間を縫って行く。

「な、なあ。魔族が村に飛んでいったけど、おじさんは、村は、大丈夫だよな?」
 ジェイは塔から離れた所で、ヴァイスに訊ねた。
 その言葉に、ヴァイスは足を止める。
 安心できる言葉が欲しかったが、期待とは違ってヴァイスの表情は暗く、その視線は地面を見つめていた。

「……今は、逃げる事を考えよう」

 ヴァイスより傷の程度が軽かったとは言え、ファズガル教団との戦闘でエルドの体力は削られている。
 村に残った傭兵も数えるほどしかおらず、ファズガル教団がまだ周辺に居る可能性も拭えない状況で魔竜軍の襲撃が加わった場合、村の人間が無事に避難できる望みは薄い。
 ヴァイスは初めから最悪の事態を想定し、エルドと別れる道を選んでいたのだ。
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🐦‍⬛からすの後書きコーナー

ファズガル教団の襲撃、魔竜軍の侵攻…大変なことになりました。
父とヴァイスは負傷しながらようやく教団を撃退した後で、エリオくんたちも走って、走って、そしてメンタルもキツいところにまだ逃げないといけない。
自分だったらそんな体力なくてすぐ死にそうです_(:3」 ∠)_
彼らはね、普段から鍛えていたり遊びまわっていて体力があるからまだ平気なんだと思います。
でもみんながみんなそんな健康優良児じゃないから、村人を避難させるだけでも大変そう…
…と、
そんな事を考えながら筆を進めております。

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