2026-05-02

Dark Hunter / 第一幕〈5〉

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 エリオットは近くのイアネアという東方にある小さな農村に(おもむ)いて魔物の討伐依頼をこなし、ネジュアに帰還した。
 すっかり空は暗くなり、ネジュアの白い街並みは街灯のぼんやりとした光に照らされていた。
 肩に掛けた皮袋には魔物から獲った戦利品が臭い消しの薬草と一緒に詰められているが、時折ほのかに血と脂の混ざった生臭さが感じられる。
 もう何度か経験しているとはいえ、この悪臭は慣れそうになかった。
 早く手続きを済ませて悪臭を洗い流したいという思いで仲介所のあるウツボ通りへと向かう。

「……はい。確認できました。では依頼報酬の千二百ダムドと、素材報酬の千三百五十ダムド、魔石報酬が六百ダムド、仲介料の百ダムドを差し引いて計三千五十ダムドになります」

 エリオットは仲介所の窓口で討伐の証として持ち帰った魔物の断片と魔石を渡し、報酬を受け取る。

 ダムドは世界共通の通貨単位である。
 魔力を失った透明度の無くなった黒い魔石を再利用して作られている硬貨で、特殊な技術で対応する値の数字と植物の絵柄が刻印されているものだ。

 窓口はあれから変わらずマシューが対応しているのか、疲れ切った彼の目元には青い隈ができていた。

「あ、ねえマシューさん」

「はい?」
 エリオットはふと、チェルシーともめていた少女の事が気になって、窓口に並ぶ人がいないのを確認してからマシューに話し掛けた。

「昼間の女の子はあれからどうしたの?」
 あれから、というと? と、マシューは思い出すように数秒天井を仰いで「そうそう」と一人頷いて視線を戻す。
「あの後、上の事務所に連れて行かれてボスと話したようですが、結構あっさり帰られましたね。どんな事を話し合ったのかは分かりませんが……」

「でも、どうしてあんな騒ぎになったんですか?」

「ええ。それが、なんでもあの子、ファズガル教団にお姉さんを

「マシュー?」

 いつの間にかマシューの背後に立っていたチェルシーが言葉を遮った。
「あっ、チェ、チェルシーさん! いつ戻って来られたんですか」

 チェルシーは作り笑いを浮かべて、エリオットの表情を窺うようにちらりと一瞥(いちべつ)し、マシューの肩に手を置く。
「今日はもう上がっていいわよ。残りの仕事はアタシがやっとくから」
「ほ、ほんとですか!」

 よほど早く帰りたかったのか、マシューは目を輝かせて一目散に奥の部屋の椅子に掛けてあった自分の上着と鞄を取って脇に抱え、二人に向き直って頭を下げた。

「それでは、失礼させていただきます」

 退出するマシューに手を振っていたチェルシーはエリオットに向き直って、にっこりと笑う。
「エリオットちゃんも、お疲れ様」
 チェルシーは身を屈めて窓口の机に肘を付け、エリオットの目を見つめた。

「今朝の女の子、レティアローの大神殿からはるばる来た巫女さんなんですって」
「レティアローの?」

 レティアローというのは、ヴィナ大陸の南西に位置する、水の精霊が集う地で年中雨が降るため「雨の国」と称される小国である。
 レティアローは水の精霊神フェアリィナ生誕の地として有名で、フェアリィナの亡骸が祀られているという本殿があり、神殿に仕える神官はフェアリィナ神と近しい血統の者で構成される決まりがある。
 つまり、あの巫女装束を作り変えて着ていた女の子はフェアリィナ神殿の本場からやって来た由緒(ゆいしょ)正しい巫女である可能性が高い。

「エリオットちゃんはここの神殿で働いてるじゃない? だからもしあの巫女さんに会う事があったら釘を刺しておいて頂戴(ちょうだい)。〝自分の実力に合わない無茶はするな〟って」
「は、はい」
 エリオットはその言葉が自分に言われているようで、居心地が悪くなって背筋を伸ばした。
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5月9日更新予定
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🐦‍⬛からすの後書きコーナー

この世界の「精霊神教」は自然信仰に近い宗教ではありつつも、レティアローの神殿の存在から精霊神がもとは人間だったのでは?と思われる説がちらほらあります。
レティアローはフェアリィナ神の生誕地であり、大神殿の本殿にはその遺体が祀られているとか、大神殿の神官はその血族であるとか…
このあたりは神道とか、現代にも神話が息づいてる空気が感じられると神秘的でいいよねーという思いで考えた要素です。

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