2026-06-27

Dark Hunter / 第一幕〈13〉

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 黒のチューブトップと太ももまで見える体型にぴったりと沿った短いスカートを着こなした、大きな蝙蝠の翼を背に持つ黄緑の短髪の蠱惑(こわく)的な女性がすらりとした足先のハイヒールを小気味よく鳴らして城の中枢へ続く大理石の廊下を歩いて来る。
 彼女は魔竜軍の幹部の一人、レオナ・イカルノ。
 魔族メドゥーサの純血であるイカルノ家は代々ファズガルに仕えてきた血筋であり、彼女もまた代々そうであったように幹部の誰よりも魔竜軍に誇りを持ち、魔竜ファズガルを敬愛している。

 左腕には動かなければ石と見紛う質感の蛇が装飾のように巻き付いており、時折ちろちろと舌を覗かせながら鋭い瞳で辺りの様子を窺っている。
 レオナは立派な両開きの扉の前で立ち止まり、横に控えている門番の黒髪の青年へと視線をやった。
 青年は腰を下ろし、柱に寄りかかって大振りの剣を両腕に抱え、丁寧に刃を磨いていた。
「リヌ、ファズガル様はいらっしゃる?」
 リヌと呼ばれた青年は深紅の瞳でレオナを一瞥すると、静かに「ああ」と答え、興味無さそうに大剣に視線を落とす。

 彼はリヌ・ダグラスという名の魔剣士で、魔族ではないが過去にファズガルに助けられた事を切っ掛けに魔竜軍に身を寄せている。
 リヌは優れた知略と剣術、精霊術の才を持ち、魔竜軍のどこの部隊にも所属しない人間でありながらファズガルにその能力を買われて王の間の門番に抜擢(ばってき)されており、レオナは気に食わなかった。
「相変わらず陰気くさいわね。ここに敵が来る事なんて滅多に無いんだから、ずっと門番なんかしてないで、少しは外出でもしたらどうなの?」
 レオナは意地の悪い笑みを浮かべて嘲笑交じりに言葉を投げかけるが、リヌは表情ひとつ変えず、レオナは面白くない、と眉をひそめた。
「ゾウェインに用があるんじゃないのか」
 リヌは大剣の手入れを続けながら、扉の前に立ったまま自分を睨んでいたレオナに問う。
「なっ……! ファズガル様の崇高(すうこう)な名を気安く呼ぶなんて! あのお方に助けられた身の上でよくもそんな無礼な態度を取れたものね」

 ゾウェインというのは、伝説上で語られる事のなかった魔竜ファズガルの本名である。
 〝ファズガル〟は魔族や精霊が扱う古代語、アミヤ語で「黒の王」を表す名であり、ファズガルを畏れ敬う者達は畏怖の念を込めてその名を呼び、本名で呼ぶ事を無礼としていた。

 トカゲのような尾を持つ鮮やかな(あい)色の髪の若い男がレオナの後からやって来て、怒る彼女をなだめるように気さくに肩に手を置く。
「レオナ、ほっとけよ。ゾウェイン様も気にしてないんだからさ」
 彼はゆらゆらと尻尾を機嫌よく後ろで揺らし、少年のような屈託のない笑みを浮かべ、廊下の隅から隅まで響きそうなよく通る声で言った。
「はあぁぁ?! ネイカー! アンタも気安くその尊い名を呼ぶなって何度も言ってるでしょ!」
 レオナは振り返って鬼のような形相を浮かべ、能天気そうな顔目掛けて怒鳴りつけた。
 ネイカーと呼ばれた男は「えー? 敬称付けたじゃん」と笑いながら頭の後ろに腕を組むが、レオナはその態度に激昂して彼の胸倉を掴み、その細腕から想像もつかない怪力で軽々とネイカーを床から持ち上げた。

 ネイカー・ホロスノーはレオナの幼馴染みで、移動手段の飛竜の指揮を任されている魔竜軍幹部の一人である。
 彼のトカゲを連想させる尻尾や鱗のある鋭く硬い爪は魔族のようにも見えるが魔族ではなく、滅びたとされる人種のひとつ、竜人とも呼ばれるトティナスの特徴である。
 彼は四十年前に砂漠で見つかった卵から生まれ、赤子の頃から魔竜軍の中で育った特殊な経歴を持つ。
 トティナスは人間の中でも長命で、およそ十五歳まではアロコイドと同様の速度で成長するが、それ以降は五倍の速度で徐々に歳をとるため、見た目は二十歳前後であっても実年齢は四十歳を超える。
 ネイカーの場合は発育が遅いのか、四十歳で平均身長が百七十から百九十センチメートルとされるトティナスとしては百六十五とハイヒールを履いたレオナよりも身長が低い点や、あどけなさのある面持ちは十六歳のようにも見える。

「気にしすぎなんだって、レオナはさぁ」
 ネイカーはじたばたともがくが、どこか嬉しそうな表情をしていた。

「どうした、騒がしいな」
 扉が音を立てて小さく開き、暗闇の向こうから炎を宿したような緋色の瞳が覗く。

 レオナとネイカーが動きを止め、気まずそうに扉の向こうへ注視すると、扉の向こうの暗闇からゆっくりと黒紫色の髪と炎の光を宿した瞳を持つ男が姿を現した。
 炎を自在に操る魔族サラマンドラの瞳、首から頬にかけて生える深紅の鱗、黒の(はかま)姿。
 レオナはその姿を見るや否や、ネイカーの腕から手を離し、表情を明るくして駆け寄る。
「ファズガル様っ」
 胸倉を掴まれ、足が浮き上がるほど持ち上げられていたネイカーは突然手を離された事により、床に尻もちを付き、頬を膨らませて不満を訴える。
「聞いてくれよー。レオナがさぁ、ゾウェの名前を気安く呼ぶなって一人で騒いでんだよ」
 レオナは敬称を付けないどころか、省略して「ゾウェ」と呼んだネイカーを鋭い目つきで睨んでから、着物の男に向き合って胸に手を当てて一礼し、姿勢を正した。
「ファズガル様! この愚かなトカゲ男も大概ではございますが、リヌが敬称も付けずファズガル様の真の名を呼んだのです。幹部でもない者がこれでは、下の者に示しが付きません」
 ゾウェインはゆっくりと頭を横に振る。
「構わん。何度も言っているが、名前にこだわる必要などない。ファズガルは他の者が勝手に付けた名だ。皆、好きに呼べば良い」
「し、しかし……」
「それより、我に用があって来たのではないか?」
 ゾウェインから話を切り出されたレオナは、背筋を伸ばして敬礼する。
「は、はい。水鏡の巫女、リュチア・シャルアローが教団に連れ去られる事態が発生しました」
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🐦‍⬛からすの後書きコーナー

今回は魔竜軍メンバーの紹介枠になりました。
人物についての説明が少なすぎたので書き直しました…
魔竜軍もなかなか賑やかなメンバーです。

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