2026-10-06

Dark Hunter / 第一幕〈26〉

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「ここまでにしましょう」

 チェルシーは試験の終了を知らせるために両手を打ち鳴らした。
 腕輪を外したチェルシーに続き、レディは背後の大きなリボンの中へ短杖を収める。
「これだけでいいの? ずいぶん簡単じゃない」
 簡単じゃない、と言った割には攻撃を受けた時に焦りが見えたようだが……と、チェルシーとエリオットは彼女の強がりに苦笑いを滲(にじ)ませる。
「合格条件を満たすかどうかさえ分かればいいの。お嬢ちゃんは文句なしに合格よ」
「物足りない気もするけど、合格は当然の結果ね」
 レディは腰に手を当て、観戦していたエリオットに向かって「ほら、言ったでしょ」とでも言いたそうな勝ち誇った笑みを浮かべて見せた。

 試験を終え、チェルシーとレディは入口の前へ移動してエリオットと合流する。
 チェルシーは台座から魔石を外して魔道具を停止させると、ふと思い出したように顔を上げ、レディの顔を見つめた。
「――ところで、気になるのだけど。お嬢ちゃんは火の精霊術は得意のようだけど、水の精霊術は使えるのかしら?」
 その問いに、レディの得意げだった表情が一瞬で曇った。
「アナタの傾向を知っておきたいの。試験の結果が変わる事はないから安心して。答えたくないならそれでもいいわ」
 チェルシーは思わぬ相手の反応に慌てて不安を拭うように説明した。

「……からっきしよ」
 レディは視線を空虚に逸らし、声の調子を落として答えた。
 チェルシーは地雷を踏んでしまった事に申し訳なさそうに眉尻を下げて次の言葉を探す。
 彼女が由緒正しい水の精霊巫女の家系という境遇を鑑(かんが)みれば、水精霊の力が扱えない事に劣等感を抱いているだろう事は容易く想像ができた。
 しかし、チェルシーは仲介所の職員、試験官としてこれから付き合っていく一人として特性を理解しておく必要があるため、止むを得ない質問でもあった。

 レディは肩を竦(すく)め、両腕を組んで表情を誤魔化すように目を瞑(つぶ)る。
「ふん。どうせ嗤(わら)うんでしょ。水の巫女なのに水の精霊術を扱えないなんて、って」
「大丈夫よ。少なくとも、アタシやここの職員にアナタを嗤う人はいないわ」
「どうかしら」
 レディはチェルシーからそっぽを向く。
「ひねくれてるわねぇ……」
 勢いでそっぽを向いた方向にエリオットがおり、レディは機嫌悪く眉間に皺を寄せて睨みつける。
「あんただってそうよ」
 たじろぐエリオットに、正面から指を差して言う。
「どうせ、同じ水の神官として恥ずかしいと思ったんじゃないの」
「え?! そんなことないよ。驚きこそしたけど、水の精霊術が使えなくても事情があって神殿に仕える人はいるし……」
 じとっと目を細めて「本当?」と言いたげに睨んでくるレディに困ったエリオットは気を紛らわすために片手で自分の側頭部の髪を軽く掴む。
「君はお姉さんを助けに行くんだろ。大した腕前ではないけど、水の精霊術なら俺が扱えるから任せてくれよ」
 感情に流され、本来の目的を忘れてはいけないと思ったエリオットは、自然とそう言っていた。
 姉という言葉が出てから、エリオットを睨んでいたレディの目元から力が抜け、次第にいつも通りの大きな瞳を瞬かせ始める。
「そうね。あたしが悪かったわ。あなたの精霊術もどれほどのものか見てみたいし、気を取り直して手続きを済ませちゃいましょ」
 さっきまでの重かった空気が嘘のように態度を変え、レディは真っ先に扉を空けて仲介所の中へ入って行った。

「……やれやれね」
 チェルシーはエリオットと顔を見合わせ、嵐がひとつ去った事に溜息を吐いた。
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10月3日更新予定

🐦‍⬛からすの後書きコーナー

「嵐みたいなヒロイン」というのは大好きなゲームのヒロインから憧れがあって、結構そういう人物像は反映している気がします。
もちろんレディちゃんはレディちゃんで、とにかく気性が荒かったり情緒の上がり下がりが激しくてお姉ちゃんっ子で、と、見た目も性格も憧れのゲームとはかぶってないので、からすの好きなゲームを知ってる人以外は多分わからないくらいじゃないかなぁと。
次回はレディちゃんも晴れてダークハンターとなって目的を果たすために出発します!
エリオくんの存在感薄くなってるけどちゃんと次回か次々回あたりは主人公してくれるはず!
また執筆遅れてます…

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