2025-09-06

Dark Hunter / 序幕〈12〉

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「二人を頼むよ、お師匠さん」
 エルドはヴァイスに、少しふざけた口調で頼んだ。
「期待しないでほしい、とは言っておくよ」
 ヴァイスは誰かに教えるという初の試みに自信はない様子で、苦笑いを浮かべる。
「大丈夫、大丈夫。術を間近で見せてやるだけでも、いい経験になるさ。剣術なら尚更、飛び道具専門の俺じゃ教えられないから助かる」
 エルドの発言に、エリオットは思い出したように不満げに頬を膨らませた。
「そんなこと言うなら、父さんも銃の使い方教えてくれたらいいのに」
 エリオットは、以前に何度か狩猟や銃を教えてほしいと父に頼んだ事を思い出したのだ。
 エルドは余計な事を思い出させるような発言をしてしまい、後悔した。子供の執念は深いのである。
「何度も言うけどな、銃は危険だ。エリオットにはまだ早い。いつも、十五歳になったら教えてやるって言ってるだろう」
「なんで精霊術は良くて、銃はダメなの?」
 そろそろ自分も何か武器を教えてもらってもいいはずだと、父の顔を睨んだ。
「駄目なものはダメ」
 エルドはそっぽを向いてこの話を終わらせようと試みるが、それは失敗に終わってしまう。
「エリオット君はお父さんみたいに銃を使いたいんだね」
 理解を示すヴァイスにエリオットは大きく頷く。
「うん! だって、かっこいいんだもん」
 エルドは照れくさそうに口の端を緩める。
「そんな風に思ってたのか。……とは言っても、父さんが猟をしてる所は見た事ないだろ?」
 エリオットにとって、銃使いという称号は父そのものを象徴しており、尊敬の対象だった。

 エルドは狩猟から獲物の加工までこなせる村の稼ぎ頭であり、エリオットにとって自慢の父だ。
 しかし、父の尊敬と銃への憧れはその理由だけではなかった。

 エルドはルイーズと家庭を持つ以前、対魔族傭兵ダークハンターとして活動していた時期があった。
 本人はあまり傭兵だった頃の話をしないが、村の大人達の話では、当時のエルドは「銀の銃使い」と呼ばれる名の知れた傭兵だったという。
 今は猟銃を使ってこそいるが、傭兵時代は銀の拳銃を片手に魔物や賊を相手に戦い、銃の扱いに関してエルドの右に出る者はいなかったという。
 エリオットも最初は作り話ではと思っていたが、ある時、その片鱗を目にしてから「銃使い」への憧れを強く抱くようになったのだ。
「前にみんなでサードおじさんに会いに行く途中で盗賊に襲われたでしょ。あの時の父さん、すごくかっこよかった! 悪い人を拳銃で撃って捕まえて。ヒーローみたいだった!」

 エリオットが父の銃さばきに感動した、決定的な出来事だった。
 サードおじさん、とは、父の双子の弟でダイディヴィス三大都市にあたる漁港都市ネジュアで精霊神官として暮らす、エリオット達の唯一の親戚である。
 テロウ村からネジュアへは遠く、魔動車という魔力で動く四輪車に乗って移動するのだが、人里から離れた何もない場所では盗賊が旅客を狙って襲撃する事が度々あり、通常は傭兵などの護衛を付けて移動するのが基本である。
 当時、エスロイ家も護衛を付けての移動だったが、護衛よりも早く父が盗賊を察知し、家族が襲われる前に盗賊を拳銃で一網打尽にしたのだ。

 目を輝かせて話すエリオットに、エルドはさっきまでとは態度を一変させてデレデレとだらしなく表情を緩めた。
「そうかそうか。そんなに父さん、かっこよかったか? いやぁ、それほどでも」
 父のデレデレの態度に呆れているのか、ルイスの溜息が聞こえた。
 エリオットは父が願いを聞いてくれるのではと期待を込めてもうひと押しする。
「俺もあの時の父さんみたいに、銃を使えるようになりたい」
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🐦‍⬛からすの後書きコーナー

※2025/09/12 小説12話の内容書き直ししました。
キーアイテム登場させよう、親子との会話を書こう、と思ったらここも予想より長くなってしまった気がします。
エルドは子煩悩だから子供に褒められるとデレまくります。

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